家政婦 ページ3
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そうだ――――家政婦を雇おう
中谷Aがそんな馬鹿げたことを成し遂げたのは、先月の残業時間が80時間を超えていたのが頭に過ぎった時だった。
Aは世の中で言う、ブラック企業の先陣を切っているような会社に勤めており、その生活はまるで死線を潜り抜けているようだった。
朝起きて会社へ行き、散々大学出の偉そうな先輩に扱き使われ、仕事を押し付けられ、残業。帰りは日を跨ぐことが多かった。
「もう死ぬ」
そう呟いて部屋を見てみれば、辺りに散らかった即席麺の殻。脱ぎ捨てた服、下着、鼻を噛んでそのままのティッシュ。
女子力など遠の昔に捨て去った。それって仕事に必要?という謎のブラック企業精神で。
Aは寝不足でぼうっとする頭をもたげながら朝久々にポストから取り出した広告類を眺めた。
――――どうせ広告なんて貰っても、死ぬ間際にならないと買い物しないし
そう思ったのもつかの間。Aは一つの広告に目が止まる。なんて無い、近くにある家政婦紹介所の広告。
「二週間限定、先着10名様にお試し家政婦コース…?」
読んで字の如く、まさにその通り。広告に写った優しそうなおばさんの写真の上には読みやすいフォントがそう並んでいた。10名限定、そんなの直ぐに埋まるに決まっている。
Aはどうせなら家事やってもらいたいな、と思っていたが望みが薄いのが分かればすぐに興味を無くして裏に向けた。
しかし、そこには何かの日付が書いてある。恐らく、それはこのチラシの発行日だろう。日付は、今日だ。
「え、じゃあまだ埋まってないかも」
Aは近くに放り投げていたスマホを取ると今までにない勢いで電話をかける。勿論、家政婦を頼むためだ。
プルルル、という待ち遠しいコールの末に出たのは老人。Aはゆったりした老人に構うことなく早口で要件を伝えた。
「はいはい、中田家政婦紹介所ですけども」
「すいません、家政婦さん雇いたいんですけど!!」
中田という老人ははいはい、と返事をするとAの名前を聞き、希望の家政婦を尋ねてきた。
しかし、80時間の残業を乗り越えてきたAにとっては家事をしてくれるなら誰でもよかった。
そう、本当に誰でも――――
「じゃあ、今日から派遣させて頂きますね。出勤なさる時にお家の鍵を此方に持ってきて貰えますか」
「いいんですか、お願いします」
Aは急いで電話を切ると、素早く身支度して家の鍵を持った。部屋の片付けなどしない。どうせ、家政婦がくるんだろうし
そう思って、Aは後ろに広がるゴミ屋敷に今日も蓋をしたのだ。
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赤羽 - 好きです。最高 (4月12日 23時) (レス) @page45 id: b22b7ccd76 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 今まで読んだ作品のなかで一番の作品でした!完結まで書いてくださり、ありがとうございました! (12月17日 18時) (レス) @page45 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
rin - めっちゃ好きです (9月12日 21時) (レス) @page45 id: 452f9d3433 (このIDを非表示/違反報告)
朝ごはん(プロフ) - 最高です。 (2022年1月10日 1時) (レス) @page45 id: 9242d0adf9 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 素敵なお話で、一気に読んでしまいました!心が温まりました。 (2020年11月5日 21時) (レス) id: 92da2ec8b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴいち | 作成日時:2020年2月10日 23時