幸せとは ページ18
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がんばれ、我慢しろ―――
ボールペンを持つ手が震えるのを感じながら、Aは自分自身にそう言い聞かせた。帰れば暖かいご飯とゆず湯を用意した家政夫が待っている。
その安息を享受するためなら、Aはなんでも出来そうな気がした。
「中谷、志律から聞いたぞ…?最近大学生の男と二人暮しを始めたらしいな」
「……」
誰もいなくなった会議室にいるのは、Aと例の課長だけ。
何故課長がそれを―――という疑問が頭の中に現れたが、志律という者と同僚が一致して納得した。どうやら、志律という同僚は北のことを課長に喋ったらしい。
昨日の自分を呪いながら、Aは課長に愛想笑いを向ける。
「だ、大学生の男性と言っても、家事を代わりにやってくれる仕事のひとですよ」
「そうなのか?でも、年頃の男女がひとつ屋根の下というなら間違いが起こるかもしれないだろう」
「…いや、あの」
だから北くんはそんなことしないっつーの、と心の中で否定するがするり、と課長の手が背中に流れてきて何も考えられなくなる。
ああ、もういっその事このボールペンを突き立てて殺してやろうか。
そんな考えは頭を過ぎるだけで効力を持たない。
「こんなふうに、触られたらどうするんだ？ん？」
「……彼は、そんな人じゃありません」
「―――やっぱり付き合っているのか？散々おれを誑かしておきながら」
「そ、んなこと」
そんなことするわけねェだろ――
身勝手な課長の北に対する偏見に、我慢出来なくなったAは微かに反論したがエスカレートするセクハラに涙を呑むしかない。
やっと就職出来た仕事を棒に振るようなことは出来ない。生活も出来なくなるし、親にも迷惑がかかる。自分一人が少し我慢すれば…
荒い課長の鼻息が肩口にかかるのを感じながら、Aは硬く目を瞑った。
北が来て、何かが変わった気がした。
前より生きることが少しだけ楽しくなって、毎日の食事が楽しみになった。
風呂に入ることを面倒だと思わなくなって、もっと自分で家の中を掃除をしてみたいと思うようになった。
それでも、北が来てくれても会社での最悪な状況は変わらない。
「中谷っ…」
「……」
妻も子供もいるだろうに、私よりも多くの幸せを持っているだろうに。何故課長はそれを放棄して私にこんなことをするのだろう。
Aはそれが理解出来ず、今日も涙を呑む。社会を生きていくには目を瞑るしかないのだ。
自分はただ、優しい彼のいる自宅に無事に帰れれば―――他に何もいらないのだから
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赤羽 - 好きです。最高 (4月12日 23時) (
レス) @page45 id: b22b7ccd76 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 今まで読んだ作品のなかで一番の作品でした！完結まで書いてくださり、ありがとうございました！ (12月17日 18時) (レス) @page45 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
rin - めっちゃ好きです (9月12日 21時) (レス) @page45 id: 452f9d3433 (このIDを非表示/違反報告)
朝ごはん(プロフ) - 最高です。 (2022年1月10日 1時) (レス) @page45 id: 9242d0adf9 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 素敵なお話で、一気に読んでしまいました！心が温まりました。 (2020年11月5日 21時) (レス) id: 92da2ec8b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴいち | 作成日時：2020年2月10日 23時
