50.風呂 ページ39
SIDE:A
涙によりしょっぱいおにぎりを完食し、私は腫れぼったい目のまま浴場へ向かった。
今は選手たちは部屋にいる。
この時間帯は外室禁止だからだ。
男子用の大浴場を通り過ぎ、グルッと回って少し小さい部屋……女子風呂に入る。
(後で保冷剤……冷やさないと……)
ぼんやりした頭で体と髪を洗い浴槽に入る。
(お風呂上がったらリンスして……)
『あ……』
もう私に、リンスは必要ないんだった。
こんな短さなら、使わない。
斜めに切られた髪をつまむ。
(……あとで……自分で切り直して……)
右側は肩につくまで長さがあるけど、左側は耳下から5cmもない。
私は美容師じゃない。整えることしかできない。
でも、整えるのにも限界がある。
(……どうしよう)
『……そうだ』
専門的な知識も技術も持ち合わせ、且つ私が相談しやすい相手。
あの人に、すごく会いたくなった。
_____
自室に戻り、スマホを出して電話をかけた。
〈もしもし?〉
『夜分遅くにすみません。お久しぶりです。
……五百崎さん』
〈あら、Aちゃん? どうしたの?〉
『えっと、ビデオ通話にして、良いですか』
〈もちろん〉
一旦電話を切り、ビデオ通話でかけ直す。
〈……Aちゃん、それ……!!!〉
メガネをかけた、オフの五百崎さんは初めて見る。
重い口を無理やり動かし、経緯を話した。
『……実は……』
〈……そっか。そんなことが……〉
『相談なんですけど、髪、整えたくて……』
〈画面越しで良いなら、今から教える〉
『え……』
〈愛弟子が泣いているんだもの。それくらいお安い御用よ!〉
『ありがとうございます、五百崎さん……』
〈ふふっ、じゃあ準備してくるわね〉
ちょっと待ってて、という声の後、画面から五百崎さんが消える。
……やっぱり、この人に相談してよかった。
心の底からそう思えた。
_____
SIDE:アンリ
Aちゃんが心配で、ソワソワしている。
絵心さんは
「心配しなくてももう大丈夫」
って言ってたけど、女の子の男性への恐怖は計り知れない。
その心配心からか、私の足はAちゃんの部屋へ向かっていた。
コンコンとノックをしてみるが返事はない。
「Aちゃん……? 帝襟だけど……」
ごめんね、と思いながら部屋の番号を解除し中を覗く。
Aちゃんは机に突っ伏し眠っていた。
髪は綺麗に整えられている。
私は彼女の頭を優しく撫で、部屋を出た。
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使い古した絡繰り人形 - はじめまして! 気付くのが遅くなってしまい、申し訳ありません・・・。もちこさん、コメントありがとうございます! これからの展開もご注目ください! これからもお楽しみに! (11月1日 16時) (レス) @page1 id: 28472857ff (このIDを非表示/違反報告)
もちこ - はじめまして! 作品を読ませてもらいましたが……とっても面白かったです!!これからも楽しみにしています。 (10月20日 18時) (レス) id: 6a0884a222 (このIDを非表示/違反報告)
使い古した絡繰り人形 - もこさん! 2度目のコメントありがとうございます! なるほど・・・確かにそれも良いですね! 色々と試行錯誤してみます! ありがとうございます! これからもお楽しみに! (10月7日 21時) (レス) @page33 id: 28472857ff (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - 出来たら落ちはなしか愛されエンドで完結したあとに他の人の落ちを書くというのはどうでしょうか?いきなりすみません。更新頑張ってください! (10月7日 20時) (レス) @page33 id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
使い古した絡繰り人形 - もこさん! コメントありがとうございます! 更新も頑張っていきます! どんどんキャラが増えていきますよ〜、これからもお楽しみに! (9月28日 21時) (レス) id: 28472857ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:使い古した絡繰り人形 | 作成日時:2023年9月18日 11時