酔狂な賭け事 蝶【男主】

第一章 ページ2

『……ん』


ゆっくりと瞳を開ける。

久々の日の光をまぶしいと思いながら、辺りをぼんやりとした目で確認した。

見慣れぬ白い天井、腕に刺された針と幾つものチューブ。

管は近くにある点滴へと繋がれていた。


『……病院？』

「起きたか」


その声は上から降ってきた。

びくん、背が跳ねる。

俺は慌てて声の主に視線を向けた。


『お、おはようございます、……オーナー？』

「なんでそう疑問形なんだ」


オーナーは不機嫌に眉を顰めると、かさりと資料を取り出しながら言った。

とんとん、と病院机を叩きながら息を吐き出す。


「本当は言いたいことはいっぱいあるんだがな、今は時間がないんだ」


オーナーは俺に資料を提示して、それから喋りだす。


「兄貴を狙った奴らが分かった。

イタリアマフィアの「Uccidere la gente」。

狙った獲物は逃がさない、地の底まで追いかける。

その構成員の一人だろうと推測される。

あそこには「死神」って呼ばれる奴もいるからな……。

人の苦しみを喜ぶイカレタ野郎――ヴェルナーってやつが」

『ヴェルナー……』

「ああ、だからあのマフィアを殲滅させる気なら、相当な腕の立つ奴と武器が必要になってくるぞ。

今も何人かは向こうに送ってみたが……」

『へー……』


俺は資料に目を通す。

その様子を見て、オーナーは訝しげに眉をひそめた。


「何だ、兄貴の居場所見つかって嬉しくないのか」

『いや、っていうか……。

……兄貴って誰です？』

「……は？

あ、兄貴、……葵って名前に聞き覚えがないのか。

お前の好きな奴だろうが」

『何言ってるんですかオーナー。









俺が好きなのは、オーナーだけですよ』

オーナーの手を取って、にこりと笑むと俺はその指先にキスを落とした。

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