追いつけない【さづ】 ページ6
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頬を撫でた冷たい風に身震いして、篠原駿はマフラーに顔を突っ込んだ。
もう12月に入り、随分冷え込んでいる。
朝起きるのでさえ一苦労で、今日も暖かい教室で居眠りしないように頑張りながら学校での授業を終え、帰路についたところだった。
「こんばんは」
すると、聞いたことのあるような声が、耳に届いた。
反射的に同じ言葉を返しながら、顔を向ける。
「……あ、圭ちゃん」
「先輩、今日も部活来ないんですか？」
途端、心臓がどくんと波打った。
圭一は陸上部の一年で、若きエースだ。
その実力は本物で、2年と3年のプライドを打ち砕いていた。
陸上部2年の駿も、類に漏れなくその一人だ。
得意としていた短距離も、バーベルも。
全てこの高校から陸上を始めたという圭一に瞬く間に追い抜かれ、ああ自分はこの天才を超えられないのだと確信した。
「なーに圭ちゃん、先輩が来てくれなくて寂しいのー？」
「…いえ」
そう言って、圭一は目を伏せた。
長い睫毛に、少し色素の抜けた瞳、筋の通った鼻、赤い唇。
どうやったらこんな美形が生まれるんだとため息をつきたいほどの容姿だ。
駿は、にこりと圭一に笑いかけた。
「だよね、ばいばい」
「まだ、答えてもらってないんですけど」
「だから風邪だって」
「3週間もですか？」
何を言ってもしつこく食いついてくる圭一に、駿は苛立っていた。
圭一が現れてから、駿はいつの間にかタイムが落ち出していた。
どんどん圭一にタイムの差を縮められ、最終的に追い抜かされていく。
顧問に失望された目で見られ、親には大会にさえ出られないのかと吐かれた。
圭一のせいで、何もかもが駄目になっていく。
圭一に、全て壊されていく。
「うるさいなあ、圭ちゃんは」
駿は、薄く笑いながら圭一を見た。
最近、笑っているのに笑えてない事が多い。
だめだ、だめだ。
こんなんじゃ、誰に見向きもされない。
「なんでそんなに俺を部活に引き留めようとすんの？」
＿＿＿あ、まずい。
笑えてなかった。
「……俺、先輩の走り好きなんです」
「…へえ」
嘘。嘘だ。
俺より速くてフォームも綺麗なお前が、俺の走りが好き？
ふざけんなよ。
「だから、部活来て下さい」
「しつこいんだよ、お前。」
ハッとして圭一の顔を見る。
何でお前がそんな顔してんだ、可哀想なのは俺だろ。
天才にボロ負けした、惨めな先輩の方が、よっぽどだろ。
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作者名：男主クリスマス合作企画 x他2人 | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2018年11月11日 17時
