誑し時【さづ】 ページ28
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最初見たとき、こいつは俺のことが憎いのだと、すぐに気が付いた。
さほど興味も無さそうに向けられた瞳に、すぐに向けられた背筋の伸びた背中に、当時まだ子供だった総一朗は、ショックを受けた。
総一朗は、生まれついての貴族だ。
それでも我儘でなかったし、同年代の子供よりはよっぽど聞き分けも良く、大人から褒められる対象だった。
それなのに。
執事の須田だけは、総一朗をまるで脳のない子供として冷たく扱って、総一朗がどれだけ賞をもらっても、認めるなんて事は全くしなかった。
それどころか、執務室まで自慢しに来た総一朗を、用がないなら帰れと、仮にも自分の主人であるのにも関わらず平然と追い返した。
「……行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
お辞儀と共に伏せられた目を見て、睫毛が長いなと思った。
今では総一朗も良い成績を収めつつ高校に進学し、須田と同じか、ちょっと高いくらいの背になった。
まだ、須田は総一朗に少しも甘い顔を見せない。
だけれど、総一朗は。
他のメイドだったり、執事だったりに向ける表情は、総一朗に向ける顔とは想像も出来ないほど優しい表情なのを知っている。
「…何でしょうか」
長い間、須田の顔を見ていたらしい。
総一朗はハッとして、外に出た。
すでに馬車が用意されていた。
名残惜しくて、後ろを振り返ると、須田が普段の可愛げのない顔で総一朗を見ていた。
それに何だか苛ついて、馬鹿らしい、と馬車に乗り込んだ。
メイド長などに須田の評判を聞くと、いつも同じ答えが帰ってくる。
「須田様は本当に素晴らしく優秀な方ですよ」と。
いくら年齢を重ねても、須田とはまるで釣り合わないことくらい、分かっていた。
それも、須田は、総一朗が肉体的にも、精神的にも成長したこの時でも、まだ子供だと思っているのだろう。
総一朗は顔立ちが良く、女から人気だった。
一方、須田は凛々しく、整っていて、艶のある黒髪からは、くらりとめまいを起こしてしまいそうな色気があった。
そんな須田に、総一朗はいつからか。
抱きしめたい、口づけたい、抱きたい……といった、そういう感情を持つようになっていた。
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作者名:男主クリスマス合作企画 x他2人 | 作者ホームページ:http:/
作成日時:2018年11月11日 17時