ぎゅって握って、あっためて【空弥】 ページ1
「……寒いね」
ブラウンのコート、紺色のマフラー。
「背中に貼った」と言っていた、使い捨ての貼るカイロ。
黒のズボンは肌を見せることなく、革靴がとんとんと鳴ったことで彼が足踏みをしたのだと分かった。
温かそうな身なりなのにそこだけ――手だけは晒されていて、真っ赤になってしまっている。
手を擦り合わせ、もじもじと寒そうにするのに、きゅんと胸が鳴った。
新塚高校、三年。
春間 A。
俺は、現在隣にいる保健医である小林 優貴と付き合っている。
惚れたのは勿論こちらから……、と言いたいところだがそれは曖昧だ。
何故なら一年の時に告白は俺がしたのだが、優貴は自分が教師であるがために暫く俺への気持ちを封印していた、と言うのだから。
そのためか、何度も付き合うことを拒まれた。
それでも何度も何度も想いを告げて、先生が折れてくれたのが今年の春。
ついに折れたその瞬間。
「……俺でもいいの?」
そう聞いてくるその上目遣いに、その涙袋に水をたんまりと溜めた姿に。
どうにも身が焦がれるような思いがして、その日は滅茶苦茶に先生を愛した。
「……何思いだして笑ってるの」
先生が不思議そうに俺に尋ねる。
伏せられた瞼が蠱惑的で、「ああ、色っぽいな」なんて。
『いや、少し昔のことを、な』
「少しなんて……。
ふは、春間俺より長生きしてないのに」
先生は「変な奴」って俺のことを馬鹿にしながらも笑う。
それをイラつきもせずに、ただただ愛おしいと思うのだから、俺も大概だ。
『じゃあ先生、次はどこに行きたい?』
「ちょっと待ってよ。
俺のほうが年上なんだから、春間が決めてよ。
俺はついてくから」
『だーめだ』
その唇を、人差し指でちょいとつついて。
俺よりちょっぴり小さい先生を見降ろした後、その手をゆっくり握って笑んだ。
『俺は先生の「カレシ」だ。
カレシがカノジョの要望に応えるのは当たり前だろ。
そこで年齢をだすのは野暮ってもんだ』
「でも」
『……優貴、ここは学校じゃない』
名前を呼んでやれば、びくんと彼の背が跳ねる。
俺がこの人の名前を呼ぶときは、大抵睦言の時だけだから耐性がないのであろう。
しかしこの初々しいのもまた、いい。
『さぁ、どこに行く?』
そう尋ねれば、「……ご飯食べに行きたい」とか細い声で言うから、俺は先生の頭を空いた手で撫でてやった。
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作者名:男主クリスマス合作企画 x他2人 | 作者ホームページ:http:/
作成日時:2018年11月11日 17時