第三十九章 ページ42
極道*
「……んっ」
ゆっくりと瞳を開ける。
見慣れぬ布団と懐かしい座敷。
どうやら気を失っていたらしい。
ずるり、額からぬるくなってしまった濡れタオルがずれ落ちる。
何処からか入ってくる木漏れ日を眩しいと思った。
きょろきょろと目だけで周りを確認すると。
「……ふは」
こっくりこっくりと体育座りをしたAが、俺の隣で舟をこいでいる。
何処か幸せを感じながら、手を伸ばしてその足をとんとん、と叩いた。
ぱちり、開かれるその瞳。
ふ、と笑うと、がばっ、と布団を捲るかの勢いで、こちらに身を乗り出した。
『あ、葵さん、起きたの！？』
「あ、嗚呼」
『いつ！？』
「さっきだ」
驚きながらも律儀に返答すると、Aは頬を掻きながら、罰の悪そうな顔をした。
『あは、さっき寝ちゃってたから。
葵さん、起きたらいっぱい話したいことあったから、起こしてくれてよかった。
場所も布団も、椿さんに貸してもらった』
「そうか、樹は？」
『ボディガードさんに暫く預かってもらってる』
「あー、悪いことしたな」
思わず苦笑すると、Aは急に黙り込んだ。
どうしたんだろうと、まだじんわり痛む身体を無理に起こし、彼の顔を覗き込むと。
その瞳に、大粒の涙を溜めていた。
「……おい」
『葵さん。
前に、俺に対して言ったよね。
「俺のために生きてくれ」って』
震えた声。
堪え切れなくなったのだろうか、滴は彼のジーンズに落ち、紺色の染みを作る。
『ねぇ』と彼は言った。
『なら葵さんは、「俺のために生きて」よ。
俺はもう、葵さんがいないと右も左も分からないのに。
置いてかないで……っ』
嗚呼。
何でこの人は、こんなにも愛おしいのか。
「……すまないな、不安にさせて」
ぽんぽん、と頭を撫でてやると、俺に身を委ねるように彼は肩に寄り添った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 409人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
空弥(プロフ) - 木の実☆（このみ☆）さん» 椿お嬢様あああああ(便乗)彼女はホントはいい子ですはい……。ありがとうございます！三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (
レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - アカツキ@鞠さん» ありがとん(ﾊｧﾄ)((某は三弾書いたでb (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - シェエラさん» ありがとうございます！ウルウルしてくださったんですか!？ほわあああ、嬉しい……。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - メロン大好き星人さん» ありがとうございます！私としても、書いてて面白い回でした。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - 桔梗さん» ありがとうございます！こんな作品を楽しみにしてくださるなんて……、嬉しい限りです。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：空弥 x他1人 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/karaichi2422/
作成日時：2018年9月24日 15時
