第三十五章 ページ38
極道*
俺の部下が、慌てたように俺の元に駆けて来る。
それを「来るな」と声で威圧した。
溢れる血が床に滴り落ちる。
心臓が脈動を繰り返すたび、そこも鋭い痛みを伴う。
掠っただけ、そう思っていたのに、どうやらあの銃は殺傷力が強いらしい。
目の前の男は、腹立たしいほどに爽やかな笑顔を作っていた。
「椿お嬢様との結婚か、Aの死のいずれかです。
迷うことはありませんよ、私がオススメする選択肢は勿論一つです。
貴方もお分かりになられているのでは?」
お分かりに、か。
正直なところ、どっちを選べばいいのか分からない。
痛みに意識が集中して、俺にはどっちか選べないんだよ、糞が。
「はぁっ」と荒く息を吐く、汗が細い筋となって頬を伝い落ちていく。
呼吸をするのさえ、傷口に響く。
『……葵さん』
嗚呼、そんな目で俺を見ないでくれ。
苦しくて悲しくて。
何より、ずっと不安になるんだ。
剣術も銃術も体術も、金も権力も。
そんなものがいっぱいあったって、心の拠り所にはなってくれはしない。
そんなつまらないものは要らない、生きていけるくらいの量が丁度いい。
ただ、愛情は俺がどれだけ欲しても早々貰えるものでも無かった。
やっと手に入れたものだ。
大事にしたいし、壊したくはない。
俺のエゴで、あいつを苦しめたくはないんだ。
俺がどんなに辛い目に遭ってでも――
……嗚呼。
それなら、答えは簡単じゃ無いか。
「……お前を連れて帰ってこないんだったら、結局俺は樹に首を刈られるんだから」
『あお、いさ、……何、考えてるの』
「大丈夫だから。
お前を殺しはしないよ」
笑った。
目を細めて、たっぷりと口元に笑みを含ませて。
「愛してる」って。
「……俺が死ねば、全部守れるだろ?」
『葵さん!』
あいつは、もう俺を「極道さん」なんて呼ばない。
殺意に満ちた目で見たりもしなければ、俺の前から消えようともしない。
今はただずっと寄り添って、傍に居てくれる。
それが俺の一番欲していたものだ。
だから、我儘な男の最後の時も、笑って傍に居てくれ。
頼むから。
刀を震える腕でゆっくりと動かして、自身の腹部に切っ先を構えた。
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空弥(プロフ) - 木の実☆(このみ☆)さん» 椿お嬢様あああああ(便乗)彼女はホントはいい子ですはい……。ありがとうございます!三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - アカツキ@鞠さん» ありがとん(ハァト)((某は三弾書いたでb (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - シェエラさん» ありがとうございます!ウルウルしてくださったんですか!?ほわあああ、嬉しい……。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - メロン大好き星人さん» ありがとうございます!私としても、書いてて面白い回でした。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - 桔梗さん» ありがとうございます!こんな作品を楽しみにしてくださるなんて……、嬉しい限りです。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空弥 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/karaichi2422/
作成日時:2018年9月24日 15時