第十一話 ページ12
『……養子!?』
「嗚呼」
葵さんの言葉に、俺は洗っていた食器を取り落としそうになった。
「落ち着け」と彼に言われても、そう落ち着けるものでもない。
『あ、葵さんって、案外子供好きとか?』
「違う。
ただ、お前と一緒に育てるんなら、取って見るのもありかと思った」
『大奥様に頼んだの?』
「あんな女に誰が頼むか。
……この前の会合で、ある話が出たんだよ」
かさり、彼が資料を鞄から取りだす。
「その組で俺たちの敵の方に寝返った奴がいたらしくてな。
こっちの世界では、そういうのに厳しい。
そいつは女だったんだが、跡をつけないためにも殺したそうだ」
『ひえっ』
「で、その女にはまだ幼い子供が居て、どうするか。
そういう話をその組の長に聞いた。
まだ小さいんだったら、生かしておくべきだろ、って言ったら、引き取ってくれる相手がいないと言われたんだ」
『……その子を引き取るの?』
「そのつもりだが」
父親はいない、母親は組織によって消された。
その子には罪がないのに、どうしてそんなに辛い目に遭わなければならないのだろう。
でも、そんな子に俺はどう接していいか分からない。
葵さんに連れ去られた、ということを除けば平々凡々と生活している俺にとって、この件を受ける、というのは難しいものだ。
『お、俺は厳しいと思う……。
そんな境遇にある子にどう対応していいか分からないし、その子が俺たちと一緒にいることで人間嫌いになっちゃったら、俺……』
「……優しいんだな」
すたすたと葵さんはキッチンの方へ歩いてくると、後ろから俺のことを抱きしめた。
『葵さん、今洗い物してるから』
「うん。
Aはその子に、過去に縛られず明るくて強い子になってほしいと思ってるんだよな。
じゃあ、母親としての資格は十分だ」
『は』
「子育て、なんてもんは、最初はどの親もそんなものだと思うぞ。
ただ、俺たちの場合はその子の「心のケア」っていうのが増えただけだ。
大丈夫。
……それとも、俺と一緒に育てるのが不服か?」
『それは……っ』
ふい、とそっぽを向けば、葵さんはにやにやと笑う。
こうやって俺の考えを、全て明るいものに変えてくれるのは。
癪だけど、ちょっぴり世界が明るく見えた気がして嬉しい。
『……分かったよ、パパ』
顔を背けたまま言うと、「その呼び名いいなぁ」と葵さんはまた強めに俺を抱き締めるのだ。
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空弥(プロフ) - 木の実☆(このみ☆)さん» 椿お嬢様あああああ(便乗)彼女はホントはいい子ですはい……。ありがとうございます!三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - アカツキ@鞠さん» ありがとん(ハァト)((某は三弾書いたでb (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - シェエラさん» ありがとうございます!ウルウルしてくださったんですか!?ほわあああ、嬉しい……。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - メロン大好き星人さん» ありがとうございます!私としても、書いてて面白い回でした。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - 桔梗さん» ありがとうございます!こんな作品を楽しみにしてくださるなんて……、嬉しい限りです。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空弥 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/karaichi2422/
作成日時:2018年9月24日 15時