八話 ページ8
「やっほ、Aさん」
777番は今日も「いつも通り」だった。
何かを企てようとしているわけでもなく、かといって寝るわけでもなく。
鉄格子の向こうから、ひら、と手を振ってその目を細めるのだ。
「777番、何度名字に看守と付けて呼べ、と言った?」
「でもそれがお兄さんの本名でしょ?
俺はお兄さんはそっちの名前で呼びたいの」
分からないものだ。
囚人が看守のフルネームを知り、その名で呼んだところで何かが変わるわけでは無い。
だが、こいつの考えは本当に読めない。
吉と出るか凶と出るかは、彼自身にしか分からない気もしていた。
「……777番」
「何?」
何処か嬉しそうに、彼は首を傾げる。
ここは直接、本人に聞こうと思った。
「……何が目的だ」
「教えない」
やっぱりか。
囚人にも「黙秘権」というものはある。
逆に俺たちがそれを無理強いさせるのは法に反する。
ダメか、と肩を落とすと、「くす」と笑い声がした。
「そんなに知りたいの?」
「嗚呼、気になるからな。
だが、嫌なら話さなくていい。
自分で探す」
「俺のデータはそうそう見つからないと思うよ」
「それでも探してやる」
「ふぅん……」
777番は、ぺろりと下唇を舐めた。
真っ赤な舌は唾液を伴い、艶やかに妖しく光る。
「……Aさん、交渉しようか」
「は」
するり、彼の右手が、牢の外に出される。
白い肌は、まるで初雪のようで。
「……毎晩、俺の手にキスして。
キス一つにつき、一つだけ情報を教えてあげる。
……どうする?
Aさん」
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ネージュ@ちくわ同盟(プロフ) - 凄い好きです(語彙力) (2018年10月29日 18時) (レス) id: 4cedcbaa5d (このIDを非表示/違反報告)
睡 - よき。すごくよき。 (2018年10月29日 13時) (レス) id: 700c135c09 (このIDを非表示/違反報告)
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