【男主】罪人は劣情に鳴く． (ページ6)

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六話ページ6

「……分からない」

顎に手を当て、「ううん」と唸った。

現在は似た罪人の量刑を比較するために、山のように積み重なった資料を一つずつ消費しているのだ。

資料に書き込みは厳禁、だから同じような罪人のケースをノートに纏めていく。

だが、これまでに刑期の長い罪人は一人としていなかった。

「おっかしいな……」

「頑張るねぇ、後輩くん」

「先輩」

先輩看守が、茶化すように看守帽の上から頭を撫でた。

思わず振り返る。

その時、俺は思いだした。

「そう言えば先輩」

「んー？」

「俺が初めて夜の見周りに出たとき、『あいつには気をつけろ』なんて言ったんですか？」

「あー……」

先輩は珈琲に口を付け、それを味わうかのように口元を動かしてから、息を吐き出した。

「何だろうなぁ、あいつは。

心の奥底を読まれそうになる」

「奥底？」

「嗚呼」

先輩はかたん、とカップをテーブルの上に置いた。

「俺にもよく分からないがな。

あいつは看守の……。

……違うな、人間の弱いところをついてくる。

俺は何度も飲まれそうになるんだ。

それにあいつは、俺たちが何の情報を欲しがっているのかも直ぐに見通す」

それには思い当たる節があった。

776番の爆弾の件。

彼が容赦なく仲間を敵に売った話だ。

「あいつの情報は的確だ。

まるでその現場を目撃したかのように、はっきりと内容を教えてくる。

例えそれが、同じ罪人の立場の情報でもな。

何の気まぐれかは分からんが。

……そういう意味では、『要注意人物』か」

なるほど。

じゃあ、先輩もあいつから情報を受け取ったことがあるんだ。

「ほっ」と一息吐き、開いていた資料を閉じた。

「そうだったんですね。

要注意人物、……確かにそうかもですよ。

看守の指つかまえて『何されてもいい』ってほざいたりもしますし」

「え？」

先輩は首を傾げた。

「何それ、そんなこと俺は言われたことないけど？」

「……え？」