【男主】罪人は劣情に鳴く． (ページ5)

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五話ページ5

その日俺は、777番についての資料を読み漁った。

あの含みのある笑みが脳にチラつく。
そのせいで業務に支障が出るレベルなのだ。

とにかくこの胸の蟠りをどうにかしたい。

だからこうして彼についての資料を探しているわけだが、どうにもイマイチぴんとこなかった。
紙面に書かれているものが全てではないということはわかっているのだが…。

｢なんだ？妙に仕事熱心だな篠原｣

顔を上げれば、片手にコーヒーを持ちながらクツクツと笑う先輩がいた。

｢気になっていることがありまして…｣

上げていた視線を、またすぐに目を伏せて下げる。
別にいつもが仕事熱心ではない、というわけではなく、資料の山とにらめっこしている俺が物珍しいのだろう。

これなんですけど、と彼に手持ちの資料を見せれば、怪訝そうにその表情が歪んだ。

｢…７７７番か？」

｢はい。何かこう、腑に落ちないんですよね。

何が、と言われるとわからないんですが｣

パラパラと紙を捲りつつ、何度も見飽きた彼の罪を眺める。

"窃盗"と"詐欺"

まさかそれだけだなんて思わなかった。

それだけ、だなんて言ってしまうのは良くないことだと分かっている。それは多かれ少なかれ刑法違反だ。

だとしても、あんな悪魔のような笑みを見せる男の事だからてっきり"殺人罪"で捕まったのかと思っていた。

｢可笑しいよなぁ…俺も担当だったときはお前と同じ事を思ったさ。その罪状のわりには刑期が長過ぎるしな…｣

顎に手をあて、考えるような仕草をしたかと思うと、物憂げな声で告げられる。

やはり先輩も同じ事を思っていたようだ。

｢まあそんなに気にするな。たかが一人の囚人だ｣

コーヒーを一気に飲み干した彼は、その言葉を残して自身の仕事へと向かう。

再び1人になった部屋で、俺はもう一度資料に目を落とした。

…やっぱりわからない。

調べれば調べるほど、謎は深まるばかりだった。