【男主】罪人は劣情に鳴く． (ページ4)

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四話ページ4

翌日確認したところ、776番――田村は小型の爆弾を所持していた。

よく身体チェックの時に引っかからなかったな、と思ったが、その爆弾は超小型のもので何処にでも隠すことができるようなサイズであり、アルミホイルに包まれていたためただの塵と考えられ関門をすり抜けたのだそうだ。

先輩看守たちは「よくそんなものを見付けたな」と俺を褒めた。

しかし、俺の心境は複雑だった。

これは本来であれば自分の受けるべき功績ではない。

だが、先輩に「アイツから教えてもらったんです」とも言えない。

「ありがとうございます」と取り敢えず頭を下げれば、「もっと堂々としてていいんだぞ」と背中を叩かれた。

その日も俺は見周りの日だった。

冷たい牢獄を照らしながら、また「彼」のほうへ近づいていくたびに心臓が五月蠅くなった。

かつり、靴音が妙に独房に響く。

775番を確認し終えたときだった。

「Aさぁん」

媚びたような声だった。

糖度を含んだような、甘い甘いその声。

電灯が照らした先は、やっぱりあの番号だった。

「……777番、俺のことは下の名前で呼ぶな。

せめて篠原看守と呼ぶように」

「固いこと言わないでよ。

お隣さんが引っ越しちゃって、俺寂しいんだから」

男は髪を指に絡ませて、くすりと笑う。

俺はそれを見て背筋に寒気が走った。

事実上、田村を微懲罰房に送ったのはこの男だ。

同じ罪人、手を組んでもいい筈の相手を敵に売った。

黙っていれば自分も逃げおおせたかもしれないのに。

そして、この笑み――

ごくり、唾を飲み込んで、細く息を吐いた。

平静を取り戻すためだ。

そして、俺はいかにも「冷厳で落ち着いた看守の声」を出してみせた。

「その件は感謝する。

おかげで776番の脱走を阻止することができた」

「ふふ、どういたしまして。

Aさんの力になれてよかった」

男は楽しそうに笑う。

その様は、捉え方によっては、まるで隣が居なくなったことを喜んでいるようにも見えてしまう。

どくん、心臓がまた大きな音を立てて存在を主張した。

こいつは何をしたいのだろう。

何が目的なんだろう。

その筋が全く読めなくて、それを恐ろしいと思う自分がいる。

「……なぁ」

「ん？」

この時の俺は、ただ自分の中の不安定要素を取り除きたかっただけなんだ。

「お前は、何のために動いてるんだ？」

「自分のためだよ」

その言葉に淀みはなかった。

唇に指を当て微笑む姿はどう見ても。

悪魔と呼ぶに相応しかった。