第二十二話 ページ27
極道*
「……帰る?」
『……嗚呼、そうだよ!』
俺の気迫が薄くなったのが分かったのか、今度はAが声を張り上げた。
『俺は明日の便でイタリアに帰る!
あんたと暮らすより、ディーラーとして生きるほうがよっぽどいい!』
「待て、どの便だ」
『教えない。
旅行に行くわけじゃ無いんだから』
その瞳は冷たいもので。
「……本当に、何があったんだ?」
そう、聞いてしまった。
Aの何があったのか、全く見当がつかなかったから。
「俺に非があるなら教えてくれ。
頼むか」
『そうやってさ、俺を玩具扱いするの楽しい?』
「……は?」
Aは、長い睫毛を一度伏せた。
次に俺を見た目は、俺の心底を射抜くように。
『……あんたさ、婚約者いるんでしょ?
もうそろそろ結婚して、ここから居なくなるんでしょ?
俺を一人にして、それから先が俺にだってあることも分かってくれない。
異国で一人にされるくらいなら、本当に向こうでずっとディーラーとして生きればよかった。
俺をここに連れて来たのは、ただの貴方の自己満足。
俺を「気に入った」。
たったそれだけの自分の欲を満たしたいがために、あんたは俺を日本に連れて来た。
……違う?』
「……それは」
『まぁ、あんたのボディーガードさんに「奥様」って言われて、多少浮かれてた俺も俺だけどさ』
けっ、と自嘲気味に。
Aは俺の手を払いのけ、ふいに立ち上がった。
「おい!」
彼は自室へと入っていき。
出てきた時には一つの小さな箱と、キャリーバッグを持っていた。
いつの間に調達したのだろうか。
Aは小さな箱を机の上に置いた。
『マグカップ、返してほしいんだったら返すよ。
あんたの記憶を、自国に持って帰るのもどうかしてるし。
向こうに帰ったらオーナーに好きだって言うのに、彼のお兄さんの持ち物を持ってるなんて』
「A、俺は」
『聞きたくない』
がらり、キャリーバッグが渇いた音を立てた。
『今までありがとうございました。
極道さん』
彼は、最後に俺の本名を呼んではくれなかった。
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ぱあだよ - ア"ぁ"ずぎいいいいい!!!!!! (2020年8月12日 22時) (レス) id: c34795aa39 (このIDを非表示/違反報告)
空弥@ロザリオ(プロフ) - BLACKMOONさん» 返信遅くなりました、ありがとうございます!いえいえ、妄想を詰め込んだだけですよ〜w (2018年12月8日 10時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
BLACKMOON - 物凄く面白かったです。私も最近文をあげ始めたのですが、まだまだだな〜と思いました! (2018年12月4日 20時) (レス) id: 1bda2ccaaa (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - soraくんさん» 返信遅くなりました、ありがとうございます!BL好きじゃない方に面白いと言ってもらえたのはめちゃくちゃ嬉しいです…… (2018年10月9日 0時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
soraくん(プロフ) - すごく素敵です。私はBLが好きではないんですけどこれは面白いです!!漫画化して欲しい…… (2018年9月24日 19時) (レス) id: 0ca2962a8b (このIDを非表示/違反報告)
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