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第七話 ページ8

『……観光、しないんですね』

「ん?」


ふいにこちらを向いた極道の男の視線から逃れるように、俺は窓の外に視線をうつした。

ここは日本へ向かう飛行機の中。

あの後、俺は有無を言わさず彼の従者の車に乗せられ、そのまま飛行機に乗ったってわけだ。

いらいらとした感情を吐き出すように、小さく舌打ちする。

男は息を吐いてから、「まぁな」と返した。


「イタリアはこういう視察でよく行くんだ。

今更そう見たいものはない」

『……、ふぅん』


視察だけにイタリアに来て、こうも直ぐに自国に帰るの?

……つまんない人。


「……機嫌、悪いんだな」


俺の顔色を窺うように、男が言った。


『……別に』

「荷物ならオーナー(あいつ)に全部送らせるし、小切手なら近くにいたディーラーに渡してきたが」

『俺は賭けに負けたのに?』

「あんな金、代わりにお前が手に入ったと思えばなんてことない」

『金持ちさんはやっぱり違いますねぇ……』


「はっ」と嘲るように笑った。

その対象は彼なのか、それとも自分なのか。

今の俺には、それがどちらであるかの判断さえつかなかった。


「何が不服なんだ?なぁ」


ぐい、と腕を引かれる。

それが強引だったから、『止めてください、痛いです』と言えばその手を離してくれた。


『……賭けで負けたから、俺はここに居る。

あんたの言った通り。

逃げたりなんかしない。

……今はそれで充分でしょ……』


言いたかったこと、全部のみ込んで俺は今ここに居るんだ。

これ以上の仕打ちは、もういらないでしょ?


「……そうだな」


思っていたよりも素直な返事が返ってきたことに慄き、彼を横目で見ると、困ったように小さな笑みを作っていた。


「……悪かった」


彼が俺の頭に手を伸ばし、ゆっくりと優しく撫でる。

その撫で方が、あまりにオーナーに似ていたものだから。


視界が、歪んだ気がした。

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ぱあだよ - ア"ぁ"ずぎいいいいい!!!!!! (2020年8月12日 22時) (レス) id: c34795aa39 (このIDを非表示/違反報告)
空弥@ロザリオ(プロフ) - BLACKMOONさん» 返信遅くなりました、ありがとうございます!いえいえ、妄想を詰め込んだだけですよ〜w (2018年12月8日 10時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
BLACKMOON - 物凄く面白かったです。私も最近文をあげ始めたのですが、まだまだだな〜と思いました! (2018年12月4日 20時) (レス) id: 1bda2ccaaa (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - soraくんさん» 返信遅くなりました、ありがとうございます!BL好きじゃない方に面白いと言ってもらえたのはめちゃくちゃ嬉しいです…… (2018年10月9日 0時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
soraくん(プロフ) - すごく素敵です。私はBLが好きではないんですけどこれは面白いです!!漫画化して欲しい…… (2018年9月24日 19時) (レス) id: 0ca2962a8b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:空弥 x他1人 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年9月11日 23時

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