最終話 ページ40
葵さんと一緒になって、約一年が過ぎた。
あの後、オーナーには葵さんの方から連絡を入れたらしい。
当然のようにオーナーからのメールは消去されたけれど、それを怒る気は毛頭なかった。
『あー、もう葵さん離れて！』
「仕事行く前の元気貰ってる」
『お弁当！
要らないんですか！？
節約して今度の休みにしんこ……、りょ、旅行行くんでしょ！』
「新婚、って言葉にそこまで恥ずかしがる必要があるか？」
『五月蠅い！』
とある日の朝。
がっ、と葵さんに噛みつくと、渋々ながら腰に回していた手を離してくれた。
この人はいけない。
俺と意思疎通が図れたと思ったら、必要以上にくっ付いてくるようになった。
ボディーガードさんにどうにかしてほしい、と頼んだけれど、「その対応は奥様だけですから、どうにもできません」とのこと。
でもくっ付かれて嬉しいのも事実であって……。
『……葵さん、今日は何の仕事ですか』
玉子焼きをお弁当箱につめながらこう聞くと、葵さんは荷物を纏めながら「あー」と遠くを見やった。
「今日は契約してる会社の視察の後、本家に資料提出して終わりだ。
夕方には帰る」
『だ、だったら』
つめ終わったお弁当に蓋をして、青色の風呂敷で包んでから。
『だったら、俺、本家の方に迎えに行く……。
その足で、その、……ご飯食べに、行こ？』
そっぽを向いてお弁当を渡しながら言うと。
「……A」
『はひっ』
「やっぱりお前、可愛いな」
ぎゅ、と軽く抱き締められてから、頬にちゅ、とキスされる。
真っ赤な顔で葵さんを見つめれば、大きな手で頭を撫でられた。
「分かった。
キリのいいところでいつ頃終わりそうか連絡入れる」
『ん……っ』
葵さんは俺の手からお弁当を受け取ると、それを丁寧に鞄に入れた。
「行ってくる」
『……骨になって帰ってくるとか止めてよ』
「お前が傍に居る限り、そう簡単に死ぬか」
俺はこの人が好きだ。
今はもう、手放したくないくらいに好きだ。
この人の何もかもが愛おしくて堪らない。
俺は、彼の唇の端に、ちゅ、とキスした。
『……いってらっしゃい』
「嗚呼」
これはポーカーで俺の恋心を賭けた。
云わば「酔狂な賭け事」の物語だ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 419人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぱあだよ - ア"ぁ"ずぎいいいいい！！！！！！ (2020年8月12日 22時) (
レス) id: c34795aa39 (このIDを非表示/違反報告)
空弥@ロザリオ(プロフ) - BLACKMOONさん» 返信遅くなりました、ありがとうございます！いえいえ、妄想を詰め込んだだけですよ〜w (2018年12月8日 10時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
BLACKMOON - 物凄く面白かったです。私も最近文をあげ始めたのですが、まだまだだな〜と思いました！ (2018年12月4日 20時) (レス) id: 1bda2ccaaa (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - soraくんさん» 返信遅くなりました、ありがとうございます！BL好きじゃない方に面白いと言ってもらえたのはめちゃくちゃ嬉しいです…… (2018年10月9日 0時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
soraくん(プロフ) - すごく素敵です。私はBLが好きではないんですけどこれは面白いです！！漫画化して欲しい…… (2018年9月24日 19時) (レス) id: 0ca2962a8b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
