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夢を見破る *28 ページ28

—side:センラ—

蹲り咳き込むAの背中を優しく擦る。
どうか僕の手の温もりが伝わってほしいと願いを込めて。

志麻君に任せて急いだ先、坂田の魔力を追って部屋に入ると目の前に広がっていたのは虚な目をして抱きしめる坂田とその腕の中で苦しそうなAの姿だった。

オーバーヒートを起こしてないだけ最悪の展開は免れたと言って良いであろう。
間に合ったことを心の中で安堵しつつ坂田からAを強引に引き剥がす。


坂田が伸ばした手を振り払い、次いで自分から発せられる声は幾分と冷ややかで
”あぁ、僕は今怒ってるのか”とこんな状況にも関わらず妙に冷静に分析できる自分に可笑しさまで芽生え出す。


その間も坂田は視線を落とし震える声で言葉を紡ぐ。
その姿は泣きそうなのを必死に我慢する子どものように幼く見えた。

“でも、ごめん”と呟き部屋を後にする坂田を無言で見送り静まり返った部屋に扉の閉まる音だけが響いた。

その音にびくりと震わせたAの肩を再び優しく撫でながら視線を向ける。


「A、大丈夫ですか?怠さや怪我とかどこか痛むところは?」

「…怠さはないです。息苦しさも…だいぶ落ち着きました。センラさん、ありがとうございます。助けてくれて。」

僕の声に頷き微笑み返してくれる姿に人知れず安堵のため息が漏れた。

心配かけまいと無理やり笑ったその笑顔は自然な笑顔とは程遠く下手くそで、でもそれすらとてもいじらしく愛おしさまで感じてしまう僕はもうだいぶ手遅れだろう。


「でも、痛む場所…あります…。」


安堵と愛おしさを噛み締めている中ポツリと呟く。
視線を床に落とし項垂れたAの背中はいつもより小さく見えた。

肩は小刻みに震えポタポタと落ちる水滴は床に大きな染みを幾つも作っていく。


「ここ、(ここ)が痛いです…。」


左胸を押さえて服に皺がよるほど強く握りしめたAは「泣かせちゃいました、坂田さんの事。私、会うたび坂田さんに辛そうな顔しかさせてない気がする…。」とまるで自分が傷つけられたみたいに悲しそうに話した。


「…坂田さんに言われました。”お嬢様”って。僕らを”思い出して”って。」


泣きながらも真っ直ぐに僕を貫く視線に上手く答えを発せない。


昔から貴女のその真っ直ぐな瞳に弱かった。


昔から貴女のその優しさが、正義感が眩しかった。



「ねぇ、センラさん…私何か皆さんとの大切なこと忘れてるんじゃないですか…?」

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設定タグ:浦島坂田船 , 歌い手 , うしさせ   
作品ジャンル:ファンタジー
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悠永@D姫終焉章連載中(プロフ) - Famiraさん» コメントありがとうございます!😊 この頃更新が中々出来ずに大変申し訳ございません。頑張って続きを書いていくのでどうか最後までお付き合い頂けたらと思います! (2023年4月17日 16時) (レス) id: 41d5883f51 (このIDを非表示/違反報告)
Famira - とってもおもしろいです!!続きが気になります!応援してます! (2023年4月12日 19時) (レス) id: 1bc63f0a03 (このIDを非表示/違反報告)
悠永@D姫終焉章連載中(プロフ) - 笹音さん» 嬉しいコメントをありがとうございます😭💕期待にお応えできる様になるべく更新頻度を落とさずに頑張りますね (2023年4月4日 20時) (レス) id: 41d5883f51 (このIDを非表示/違反報告)
笹音(プロフ) - めっちゃ気になるぅ!早く続きをみたいです! (2023年4月3日 18時) (レス) @page12 id: bd99ba81f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:悠永 | 作成日時:2023年2月7日 11時

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