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「同じ、って・・・・・・」
「あれ。違った?Aからはそういうのは感じなかったから連れて来たんだけど」
「そういうの」とはきっと、自分に近寄って来る人間の事を言っているのだろうとすぐに理解ができた。
ショウが気怠そうな目をしている理由が、何となく分かったような気がした。
でも彼の言う「同じ」は、多分私の抱えているものとは全く別のものであるように、漠然と感じた。
「なら、する?」
「・・・・・・は?」
「俺は別にいいけど」
言葉とは裏腹に、全てを諦めているかのようなショウに、苛立ちなどたちまちに消え失せてしまい、何だか泣きたくなった。
感情を滲ませないように、努めて冷静に自分の意思を吐き出した。
「冗談言わないで」
僅かに声が震えた気がした。
「・・・・・・何だ。残念」
少しも残念そうに感じられない声色にため息が漏れる。
長めの前髪に隠れたショウの目元は、安堵の表情を浮かべているように見えた。
それからどのくらい時間が経っただろう。
特に何を話す訳でもなく、何もするでもなく、私は彼の淹れてくれるコーヒーを何杯も口に流し込んだ。
「そろそろ乾いた頃かな」
唐突にそう言って立ち上がるショウを、何がと問い掛けるようにゆるゆると見上げた。
「服」と単語だけ答える彼に、はっとして時刻を確認する。
時計の針は午後九時前を示していた。
確かあのベンチに座っていたのは夕方頃の筈だから、この部屋を訪れてから随分と時間が経っていた。
さっさと帰ればいいものを、ダラダラと友人の家で過ごすかのように居座ってしまった。
最初はあんなに早く帰りたいと思っていたのに、今はこの空間から去らなければならない事が何だか名残惜しい。
よろよろと服を着替えてから、荷物を手に玄関へと向かう。
まだ湿り気の残る靴に履きづらさを感じていると、背後から歌うようなショウの声がした。
「雨が降ったら、またおいで」
壁に凭れ掛かりながらそう口にする彼の顔に、気怠さはもう何処にもなかった。
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作者名:かる | 作成日時:2020年7月29日 0時