addiction (ページ4)

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彼はショウ、と名乗った。
案外普通の名前だなと思ったけれど、感情の起伏が豊かには見えない彼の雰囲気にとても良く合っているような気もした。
そんな風に独りごちていると

「名前、何ていうの」

こちらに視線を戻したショウは静かに問うてくる。
ショウが名前しか名乗らなかった為、自分の名前だけを告げた。
どうせ、もう会う事もないだろうから名字まで教える必要はないだろう。

「––––––––––A」

小さく呟くショウに、何処かくすぐったい気分になる。
何度もその口から発せられていたような、懐かしさを伴った響きで呼ばれるものだから、私の名前はこんなに綺麗な音だったかと錯覚を起こし掛ける。

しばらく無言の空間が続くも、気心知れた仲でもない訳で、頭の中で会話の糸口になりそうなものを探していると

「警戒心って言葉、知ってる？」

なんて、悪戯をした小学生を諭す教師のような口調でショウは首を傾げた。
あまりにも様になっているその姿に唖然とするが、同時にふつふつと何かが込み上げてくるのが分かった。

「いつもこうやって女の子を家に連れ込んでいかがわしい事してるんですか」

怒りを滲ませて放ったその言葉は、抑揚など全くなく、むしろ冷え切っていた。
自分からこんな声が出るんだ、なんて感心していれば冗談はやめろというような顔でショウが鼻で笑った。

「まさか。家に連れ込んだりしない。そういう事はホテルだけで充分」

全くもってその通りだと思った。
きっと綺麗な外見を持つショウには、当然のように女の人が何人も寄って来るのだろう。
身体だけの関係ならば尚更ホテルだけで充分だろう。
面倒事になるのは御免である。
私のような人間を誘う男は物好きだとは思うが、何をしてくる訳でもない現在のこの状況は一体何なのか。

「何で、って考えてるでしょ」
「・・・・・・まあ。見返りを求められる事は多いですから」

これまで会った人間はこちらが何かを必要とすれば、必ずといっていい程、金や身体といった対価を要求してきた。
それこそ男女関係なく。

悶々と嫌な事を思い出しそうになる思考を追い出そうと、ぬるくなったコーヒーを喉に流し込んだ。
私がコーヒーを飲み終えたのを見計らってか、ショウのゆっくりと息を呑む音が聞こえた。

「俺と同じだと思ったから」

彼のその言葉に心臓を鷲掴みされたような感覚に襲われた。

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