6.淡く ページ30
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「落ち着いた?」
過呼吸になっているのではないかと思うほど乱れた呼吸を整えるのに躍起になっていた私は、その声にゆるゆると顔を上げた。
バチ、と紫耀と視線が重なる。その反動か、勢いよく目を逸らしてしまう。
「目。見るの、怖い?」
無意識の内にバスタオルの端を強く握りしめていた。
全身が震えているかのように、また上手く呼吸が出来なくなっていく。
ふいに頭上にふわりと重さが乗った。
ゆっくり私の頭を撫でる紫耀の手つきは酷く優しかった。
昔から誰かと目を合わせて会話をするのは得意とは言えなかったが、今はとにかくそうする事が恐ろしく感じた。
「大丈夫」
紫耀は、何度も何度もそう繰り返した。
「今日はここで寝ていいから」とベッドのある寝室へと手を引かれ、有無を言わせない手つきでタオルケットを掛けられる。
布団から漂う紫耀の甘い香りに酔いそうになる。
枕元に腰掛けた紫耀の表情は、暗い室内ではよく見えなかった。
「今日は何もしないから」
「・・・今日は」
「そう。今日は」
見えない筈なのに、笑んだであろう紫耀がやけに艶めかしく思えた。
「おやすみ」
彼の声に、意識ごと鮮やかな夢の中に吸い込まれていくようだった。
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作者名:かる | 作成日時:2020年7月29日 0時