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「だからいいかなって思った」
「・・・・・・そうですか」
コポコポとカップに注がれるコーヒーの音が、やけに大きく聞こえた。
「あと名前」
「はい?」
「紫耀でいいって言ったよね?」
「・・・・・・私の休日を自由にしてくれるなら呼び捨てにでも何でもします」
「それは困る。もうAは俺の助手なんだから」
「勝手に決めないでください」
「それと。自由に、って事は要はAが楽しければ問題ないだろ?」
「・・・・・・大アリなんですけど?」
会話が全く成立しない事に困惑と若干の憤りを覚える。
『俺の事、好きじゃないだろ』と言う紫耀の呟きが、何もなかったように虚空に流れていくようで、思わず胸を撫でおろした。
帰り際に一枚の封筒を手渡された。
開けてみると中には数枚の写真が入っており、どれもが空を写したものだった。
白みがかった朝焼けの空、夕焼け、満天の星空、
雨の落ちる湖。
「あの日、空見てたから」と言う紫耀の瞳は、何処か遠くを見ているようだった。
空を見上げながら並んで歩いていると、足が止まった。
「どうした?」と尋ねる紫耀に「さっきの」とあまり答えになっていない返事をしつつ、鞄から先程の封筒を取り出した。
夜空から零れ落ちそうな程の星が写った写真を見つけて、上空に掲げた。
「全然違う」
「こんな都会じゃ見えないよ。冬なら少しは見えるだろうけど」
「どこで撮ったんですか?」
「どっかの田舎」
「どっかって・・・・・・」
そんな適当な、と呆れる私を余所に紫耀はゆったりと歩き出した。
歩幅を合わせてくれる紫耀に、くすぐったい気分になった。
やがて自分の住むマンションが見えてくると「ここで大丈夫です。ありがとうございました」と頭を下げた。
「じゃあ、また」
「はい。また」
「もう嫌がらないんだ」
「え?」
「来週から頼んだ」そう一言残し、紫耀は踵を返していった。
一日中、天気が崩れないのは珍しかった。
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作者名:かる | 作成日時:2020年7月29日 0時