君想う夢・君恋し花 …５

愛を彷徨う人 … ３１ ページ47

「…稀代の…ｱﾙﾌｧ？」

きき慣れない言葉に聞き返すと、皆川さんが大きく頷いた

「そうです、ｱﾙﾌｧを統率するｱﾙﾌｧとでも申しましょうか、稀代のｱﾙﾌｧとは、生まれながらにトップに君臨することを運命づけられた方です」

「それが、太輔…？」
「ええ、そしてアナタは稀代のｱﾙﾌｧ選んだオメガとなります、通常であれば稀代のｱﾙﾌｧの子を産むのは同じｱﾙﾌｧ種の女性か、落ちてもベータまで…、まさかオメガを選ぶとは…」

呆れた表情を隠すこともせず、皆川さんは肩を竦めチラッとオレを見た

「宏光様、あなたのお仕事はオメガの本質である《生殖》です、藤ヶ谷ホールディングスを継ぐのはｱﾙﾌｧ種でなくてはなりません…、必ずｱﾙﾌｧをお産みください、それが貴方のオメガとしての義務です」

情け容赦なくそう言い切る皆川さんに、オレは茫然とその場に立ち尽くした

「そんなの…、もしｱﾙﾌｧじゃなかったら…」
「ｱﾙﾌｧでないなら、藤ヶ谷の家系には必要ありませんね…、淘汰されることもあるやも知れません、ですが名家では良くあることです…」

何の感情も無く言い放つ皆川さんに、オレは恐怖さえ覚えた

淘汰…って…？
言葉の裏にある衝撃的な事実に絶句してしまう
オレの中にいた…ゼロにされた《あの子》が脳裏に浮かんだ

また…？

「命を…と言うことですか？」
「さあそこまでは…、ですが存在を無かったことにする為の方法は、色々あると思います…、そして、…それに加担させられる人間も…」

言葉の途切れさせた皆川さんの顔に、何かを思い図る様な表情が浮かんだ

「皆川さん…」

ハッとしたように目を開き、オレを見ると眉を顰め顔を背けた

「あくまで執事として、お家を守る為の策です、…失礼致します」

一礼して、今度こそオレに背を向け奥に戻って行く、真っ直ぐに伸びた背中には、言葉に出来ない何かを背負って生きている悲しさが見える気がした


そのままオレも太輔の部屋に戻り、広いベッドに身を投げ、枕に顔を埋めた

《必ずｱﾙﾌｧをお産みください》

ｱﾙﾌｧの子を産めるのは、オメガ唯一の特権だ
それが出来るからこその幸せも、そして悲しみも廓でイヤと言うほど見てきた…


αと番って生まれてくる子は、ｱﾙﾌｧかΩ、どちらかしかない…

初めてオレは、上流階級の性差が及ぼす格差を恐ろしいと思った

もし、この先オレが太輔の子を宿して、その子がオメガだったとしたら…


太輔はその子を…どう思うんだろう…

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