君想う夢・君恋し花 …４

愛を生む人 … １９ ページ21

「いや…」
「…してないのか？お前…あの子はΩだぞ！HEATが始まってるのに避妊もせずに交わったら、確実に妊娠するぞ！産科医なら分かるだろ？」

口篭るオレに、四宮は眉を上げ語気を強めた

「する必要ないだろ、オレ達は誰に隠すことも無い関係だ、宏光の人生はオレの手にある、これで妊娠したなら寧ろ喜ばしい程だ」

言い返すオレに、四宮がセルフレーム越しに冷ややかな視線を向けた

「…あの子は？あの子自身は、それを望んでんのか？」
「それは…」

あんな状態でも、番おうとしたオレから項を庇う宏光…そして、呟かれた「タイスケ…」

「その顔なら、あの子は妊娠を望んでないんだよな？、ならお前が取るべき道は一つだ」

そう言うと、四宮はオレにアンプルを渡してきた

見ればわかる…

「アフターピル…」
「交わりから48時間以内なら、着床は阻止できる、子どもはどちらか一方の望みだけで産むべきじゃない、ましてや産むのはあの子だ、二人の絆を結べてない状態で妊娠させるのは酷だ、止めておけ」

「四宮…」

「どんな子ども両親から愛されて育つべきだ、そうでない状況が容易に予想できるなら、オレは妊娠には反対だ」

四宮のポリシーは、大学時代から変わってない…

望まない妊娠が引き起こす悲劇は、産科医なら誰もが目にして来ている

オレはアンプルを握りしめ、四宮に向き直った

「…言ったはずだ、宏光の人生はオレの手にある、決めるのはオレだ」
「お前…っ！？」

沈着冷静を絵に書いたような四宮の変化は、オレの中の罪悪感を引き摺りだす

でもオレは、その感情から目を背けた

正論を振り翳す人生…、空々しい立派な建前が持つ虚しさを、オレは子どもの頃から嫌という程見てきた

「ありがとう四宮、無理を聞いてくれて助かった…後はオレだけで大丈夫だ」
「山下…？」

「もう帰ってくれていい…礼は後日…」


そのままリビングのドアを開けると、四宮がオレを睨んだ

「オレの用は済んだと言うことか…」
「助かったよ」
「……」

そして四宮は、宏光の部屋の方にチラリと目を向けた後、オレの顔を見た

「…山下、愛せない子を生んで育てる…それがどれだけ残酷なコトか…、お前なら分かるだろ？、よく考えろ、一度この世に生まれた命は、無かったことには出来ないんだ…」


四宮の最後通告…

「ご忠告、ありがとう…」

そして、遠ざかるエンジン音…

音が消えた瞬間、オレはアンプルの先を折り薬剤をシンクに流した


「宏光は、誰にも渡さない…」

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