君想う夢・君恋し花 …３

愛を乞う人 … ７１(追加あり) ページ49

自分と年は変わらなさそうなのに、持ってる雰囲気と佇まいが、どう見ても自分とは違っていた

なんて言うか…持って生まれた格の違いを見せ付けられるような感じ、オレなんかが近寄って良いのかな？と思わせるような男の子だった


でもこんなにキレイな簪なら、きっと落として困ってるだろう、返してあげたら喜んでくれるかもしれない…

義務感も然ることながら、同じ年くらいの子と関わることが滅多にないオレは、ほんの少しだけ期待感を持ってその子の傍に行った

着物は川に入ったコトでビショビショで、風が通り抜ける度にプルッと震える冷たさを感じたけど、それ以上に初めて目にしたキレイな顔立ちのその子に話し掛ける緊張感と期待感が相まって、寒さなんかどうでも良くなっていた


近づいてくるオレに、その子が不思議そうな顔で目を向けた、


わぁ、ホントにキレイな顔してる…
ちょっとドギマギしながら近づき、持ってきた簪を見せた


「コレ、キミのでしょう？」
差し出すと、かなり驚いた表情でオレと簪を見比べてくる

「大切なものなんでしょう？もう落としたらダメだよ」ちょっとだけお兄ちゃんな感じでそう言って掌に乗せてあげると、その子が困ったような顔をした

あれ？違ってた？
この子が落としたんじゃないのかな…？

不安が押し寄せ、どう尋ねるのが正解なのかと考えてとりあえず「凄くキレイな石だね」
と話かけた、光に当たって赤色の石がキラキラと反射する


こんな物を持てるなんて、とてもいい家の子なんだろうな…と思ってると不意に

「あげようか？」とその子に聞かれた

え？オレそんなこと全然思ってないし！と首をブンブン横に振った


「いいよ、大事なものは大事な人にあげるものだから」

初対面の自分が、こんな高価なもの貰えるわけがない、そう答えると男の子がちょっと考えて「だったら…」と言葉を続けた


《だったら…？》

その先にある言葉を考えながら、「キミにあげるよ」の一言を想像からアタマに呼び出した


でも結局あの後、男の人がコッチに来るのが見えて、オレは続きの言葉を聞くことも無く、慌ててその場から走り去った、

櫻華楼に戻ってからも、オレはこの日の出来事が暫く頭から離れなかった

「あの子が、太輔だったのか…」

赤い石の輝きと男の子の姿が、想い出の中で重なる

《大事なものは、大事な人にあげるものだよ》


あんな短い出会いの中、太輔は、オレの言ったコトを覚えていてくれた


簪を手に取り、胸に押し当てた…

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