愛を乞う人 … 68 ページ45
「ミツ…、オーナーが身請けの式の支度始めろって、…入ってもいい?」
格子の嵌った窓から見える空を眺めていると、ニカの声が障子の向こうから聞こえた
ああ…もう、そんな時間なんだ…
そして、トモが今日の為に用意してくれた白羽二重の着物に目を遣った
「…うん、いいよ、…どうぞ…」
そう返すと、シュ…と滑る音がしてニカが入ってきた
「そろそろ始めないと、式に間に合わないからって…」
「そだな、…うん…」
目の前にある純白の衣装…、それは今までのオレを捨て去り、トモの色に染まり、トモの為だけに生きる事を約束させるものだった
廓の慣習で、身請け前の数日間は、心とカラダを清める意味でトモと会うことはしていなかった
鏡の前に座ると、羽織っていた着物を肩から落とされた、お湯に浸した手拭いで首筋から背中を撫でる様に拭われていく
お湯に溶かしたアロマオイルが、フワリと鼻先に香った
「…今日が最後だね、こうしてミツの支度手伝うの」
「そだな…」
身請けの式が終われば、オレはココを出てトモが用意した家に移ることのなっていた…
新しい時間、新しい毎日……そして、新しい《北山宏光》…
でも、周りはどんなに変わっても…何一つ変われない…オレの心…
肌蹴られた背中を拭う感触と香り…
意志とは無関係に拭い去られていく、オレの人生…
そして髪を整えられ、項に甘い香りの練り香水が付けられた
項は、αとΩが番になる為の場所だ…
初夜まで香るようにと、濃く甘い香りが付けられた
鏡越しに見たニカが、とても苦しそうな表情をしてオレを見つめていた
「ニカ…?どした?」
「あ、ううん…、何でも無いよ、」
そして、顔を俯かせ、衣紋掛けに掛けられていた肌襦袢を手に取った
帯を解かれ、身に付けていたものを全て脱ぎ捨てる、そのカラダに真っ白な襦袢が着せかけられた
細めの紐で前を結わえ整えると、もう一つの…純白の着物を肩から着せ掛けた
「ミツ、手を通して…」
「うん…」
言われるがまま袖を通すと、絹地特有のズッシリとした重みがカラダに伝わってきた
前は組紐で合わせるようになっていて、綸子の織り模様が、窓からの光にキレイに輝いていた
姿見に映る己の姿を見て、オレはフッと口角を上げた
「…フフ、なんか花嫁衣裳だな…」
一言の言葉の出ないニカに向かって、オレはそう話しかけた、ニカの目元のホクロがキュッと動いた
「…ミツ、」
「ん?」
「コレ…、渡されたんだ、」
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まいまい(プロフ) - はじめまして!惹きこまれてどんどん読んでしまいました。どんなに運命に翻弄されても、2人が絶対結ばれると信じてます!カッコいい太輔とかわいい宏光をありがとうございます!! (2020年8月5日 9時) (レス) id: d8ffbdef31 (このIDを非表示/違反報告)
GAYASAKURA(プロフ) - kazuさん» 一段落のようなので、一日一話でもアップしていきたいなと思います!ラジオやミラツイも始まり、《たいすけたん 》にはうれしたのし大好きな春になりました!花粉に負けず頑張ります!コメ大感謝です! (2019年4月8日 21時) (レス) id: 3b1ef006c1 (このIDを非表示/違反報告)
GAYASAKURA(プロフ) - kazuさん» こんばんは!コメありがとうございます!お子様ですか、今日から新学期でしょうか、お母様は大変ですよね、亀アップなので申し訳ありません、覗いて下さりホントに有難いです、続き楽しみコメありがとうございます!年度変わりの忙しさもやっと (2019年4月8日 21時) (レス) id: 3b1ef006c1 (このIDを非表示/違反報告)
GAYASAKURA(プロフ) - こっちゃんさん» コメ大感謝です! (2019年4月8日 21時) (レス) id: 3b1ef006c1 (このIDを非表示/違反報告)
GAYASAKURA(プロフ) - こっちゃんさん» あの衣装は似合わないですよね、渡辺大さんがあのマレフィセントや魔王やピンクタキシード着てもビミョーだと思います笑、今年の衣装も楽しみです!藤北曲が無いのが残念です、今年お留守番なんですね、いつか密かに同じ会場におられるかもと楽しみにしております! (2019年4月8日 21時) (レス) id: 3b1ef006c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:GAYASAKURA | 作成日時:2019年2月27日 0時