君想う夢・君恋し花

愛を売る人 … ４３ ページ44

「花魁、山下様がお迎えに来られた、支度は整ってるのか？」

予定より少し早い時間にオーナーが部屋に来た
「はい、大丈夫です」

逸らない心を持て余しながら、オレは返事をする、トモから贈られた浴衣を着てることでオーナーはホッとしたようだった

「さすが大倉呉服店の品物には品がある、娼花のお前でも、どこぞの大店の跡取りに見えるものだな」

その言葉にどう答えればいいのか…とりあえず苦笑いを返しておいた

「さ、下に降りなさい、…くれぐれも粗相の無いように、余計な事は考えるな、お前は山下様の御機嫌を損ねないよう、可愛がって頂きなさい、逆らうことは許さない、いいな！」

「分かってます…」

余計なコト…、亡くした仲間に想いをかける事のどこが余計なコトなんだ…湧き上がる感情を唇を噛み締めることで隠し、オレは下に降りた

「宏光、少し早く来てしまったんだけど良かった？」
「あ、はい…」

優しい笑顔で迎えてくれるトモに、オレは少し驚いた

玄関に立っているトモは、いつものスーツ姿とは違って、涼し気な白シャツに淡い色のベージュのジャケットの袖を折り返し、細身のデニムというラフなスタイルだった、見慣れないのと似合いすぎてるコトに、ちょっと戸惑ってしまう

何も言わないオレに、オーナーが痺れを切らしたような口調で言葉を発した

「山下様大変お待たせいたしました、花魁もお越しいただくのを待ち遠しく思っていたようで、支度も既に整っておりましたよ、お心遣いの品も流石のセンスで、勿体なく思っております」

「うん、黒髪によく似合ってるね、行こうか
…オーナー、今日は花魁を連れて出るよ、ありがとう」
「どうぞどうぞ、花魁に何か粗相がございましたら、いつでもご連絡下さい」

ハエの様に手をスリスリしながらの満面の笑み…

トモの目じりに少し呆れたような動きが見えたけど、「行こうか」とオレを促した

三和土に置かれた下駄を履いて、外へ出る
夏の夕方…打ち水をした地面は、少しだけひんやりとしと風を生んでいた

今日は業種に関わらず、どの店も玄関に笹飾りを置くのが風習だ、軽やかな鈴の音の笹の葉擦れの音が、耳に心地良かった

ユウ…またこの日が来たな、
オマエ、毎年この笹飾りを見ながら何を思ってたんだろうな…


「無理に誘ってしまったかな？」
「え？」
「心、ココに在らずって顔に書いてあるよ？」

人差し指が頬に触れて、見上げたトモの表情に微かに不安そうな色が見えた


「そんなコトないよ…」

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