君想う夢・君恋し花

愛を売る人 … ２０ ページ21

湯船から上がり、自分のカラダから立ち上る芳香に溜息を付き、用意された部屋に行くとニカが待っていた

「ニカ、トモは来たの？」
「うん、さっき、ミツ支度中だから、その間禿がお相手をってオーナーが言ったけど、要らないって言って別室で一応おもてなし受けてる」
「そか…」

「コレ…ミツに着せてって渡されたんだけど…」

そう言うと、有名高級呉服店の名前が染抜きされた風呂敷の結び目を解いた

「うわ、高そ…」
ニカの呟きが空気に混ざる

入っていたのは、淡い桜色の絹地に肩には大輪の百合、袖には幾つもの花が美しく染めで描かれてる振袖と、ほぼ白に近い薄桃色の肌襦袢だった

確かに…コレが相当の名品であることはオレですらわかる…

「今日の為に誂えたのかな…あの人」
「どうだろな…」
「着替え、手伝うよ」
「うん…」

湯殿から着て帰った浴衣を脱ぎ、ニカに手伝って貰って肌襦袢と着物を身につける、置いてある姿見に映る自分は、アロマオイルの効果もあるのか、自分でも嫌悪したくなるほどの艶めかしさ醸し出していた、

閉じられた襖の向こうには、褥が用意されている、逃げ場はもう無い…

「なら、オレ戻るね…ミツ…」
「うん…ありがとう」
「朝、また起こしに来るから」
「ん、頼む…」

短い会話の中に、ニカからオレへの労る気持ちが汲み取れる

そして障子が閉じられ、部屋にはオレ一人となった

アンティークのローチェストの上には、オーナーの好みの海外の置時計が秒を刻む音を立てている

その音が、まるで自分の心臓の音がそのものに思えた

同じテイストの座卓の前に座り、障子の向こうに聞こえてくる音に耳を集中すると、やがて軽やかな足音が聞こえた

「こちらで花魁がお待ちしております」
「ありがとう…もう下がっていい」

オーナーとのやり取りの後、サラリと障子が開いた


「お待ち申し上げておりました…山下様」

三つ指を付いてアタマを下げると、「こんばんは…」と優しい声音と共に、いつものトモの香りがした


顔を上げると、付けてる香水と同じ雰囲気の静かで柔らかい笑顔でオレを見つめていた

「その着物、もう着てくれたんだ、実は先代の時からウチに出入りしてる呉服屋に《恋人にいかがですか？》と勧められて、つい見栄を張って買ってしまって、…貰ってくれて嬉しいよ」

と言葉通りの表情でそう言った

思っていた事とは違う成り行きに、オレは戸惑いを覚えた


「急に予約をいれて悪かったね、抑制剤持ってきたんだ」

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