君想う夢・君恋し花

愛を売る人 … ３５(追加有り) ページ36

「せめてあの時、医者に診せてくれてたら、ユウは…っ」

オレの言葉に、オーナーが逆上した

「オマエはまだそんな事を言ってるのかっ！？ユウの事は、十分過ぎるほど手厚く葬ってやったんだ！何の文句がある！？」

胸ぐらを掴まれて、荒く引き上げられる
それでもオレは、オーナーから目を逸らすことはしなかった

「いくら花魁だからといって、私に楯突くのは許さんぞ！いい気になるなッっ！！」
振り上げられた右手が、勢いを付けて振り下ろされる、けど殴られる寸前、オレのカラダが誰かに引っ張られた

「止めろよッっ！」

庇ってくれたのはニカ、オレを背中側に置いて
オーナーに食ってかかった

「テメェ花魁にナニすんだよっ！！」
「ニカっ！いいから！」
「良くねぇよっ！」

その時オーナーの手がニカに伸び、次の瞬間したたか頬を打たれたニカのカラダが床に吹っ飛んだ

「ニカッっ！」
「役立たずの禿負勢が生意気な…なら花魁の代わりにオマエが制裁を受ければいい！」

怒りの矛先をニカに向けたオーナーが、倒れたニカの腹を踏み付け、痛みで蹲るニカの腰を力任せに蹴り上げた

「オーナー止めてくださいッっ！」
「黙れっ！！いいか花魁、オマエが私に楯突けば身代わりにコイツが被害を被るんだ！ソレをよく覚えておけッっ！」

罵声を浴びせながらオーナーは、奥へ戻って行った

「ニカ大丈夫か？！ゴメンなオレのせいで…」
腹を抑えて苦しそうに息をするニカを起こし、蹴られた腰を摩ると、しかめっ面をしながらも笑っていた

「ｲﾃﾃ…平気だって！…は、花魁の顔に傷付けてどうすんだってーの、アイツさバカじゃねえの？」

敢えて憎まれ口を叩くことで、オレを安心させようとしてるのが痛いほど分かる…
ニカの気持ちがいじらしくて、オレは両腕でギュッと抱きしめた

「ゴメンな…ッニカ…」
「いいって！こんなのなんてことねぇよ！じゃオレ台所戻ろっかな、油売ってるとまた外野がうるせぇから」

脇腹を抑えながら立ち上がり、ニカはオレにピースサインを見せて店の奥に戻って行った


《オマエが私に楯突くなら…》
オーナーの言葉が、オレに重い枷をつける


オレに出来ることは何も無い…
人間らしい心を持てば、自分だけでなく他の人を傷付けてしまう


「…所詮オレも、人形なんだ…」

心を無くし…時の流れに逆らわず生きていくしか歩ける道は無い…



ユウ…、もうすぐあの日が来るよ…



己の無力さを思い知らされた《星祭り》が……

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