I wish to be your only one … L.O.V.E ４th

Precious Lover … １７６ ページ32

「ひろ、手伝いは後からでいいから荷物部屋に戻しておいでよ、ひろの部屋コッチだから…」

スーツケースを太輔が２階に持って上がり、ドアを開けた

「…ココがオレが使ってた部屋？」
「………ん、そうだよ…」

何となく間が開いたような気がしたけど、太輔はいつもと同じ、優しい顔でそう言った

部屋は、そこまで広くはないけどベッドと机、壁一面のクローゼットがある、クローゼットを開けるとオレのだろう…服がきっちりハンガーに掛けられて収まっていた

本棚には、建築やデザインの本がシリーズ毎に収められてる…何となく洗面所の一角を思い出した

「自分で片付けた方がわかるよな、足りないものあったら言って、」
「うん、サンキュ…なあ、オレってけっこうキレイ好きだった？」
「うん、なんで？」
「洗面所、使いやすいように片付いてたから…、ココも…同じ」

そう言うと、太輔は《ああ…》て風に微笑んだ

「…そうだな、お互い忙しい時もあったから、なるべく家事の負担は最小限にしようって言って、途中リフォームもしたんだ、ひろがデザインしたんだよ、専門家だしね」って太輔が言った

「オレ…ホントに建築の仕事してたんだな」
「うん、また事務所連れて行ってあげるよ、もう少し…生活に慣れたらね、じゃオレ渉の手伝いに戻るわ！ゆっくり片付ければいいよ」

そう言って階下に降りていった

階段を降りる音とドアを開ける音がして、オレの部屋は静かになった

部屋を見廻すと、木製のシングルベッドとデスクは同じ色味で揃えてある、リネンは濃いめのブラウン…枕はベージュ…

壁の半分を占めるにある窓には、インディゴブルーのカーテンが掛かっていた

落ち着いた色味で揃えられた部屋は、オレの好みをそのまま模していて、ホッと心が緩むのを感じた

ベッドに腰掛けてぽふっと寝転がる、
高めの天井にある照明は、木目のバーに三連の電球が付いてるデザイン…、これもオレが選んだのかな…？


わからない…なんもかんも全てが、初めて見るものばかり、ここにオレは居たはずなのに…懐かしさも何も感じない…ッ…


想い出を失うって、こんなにも苦しいんだ…


オレは…何者なんだ…
《北山宏光》という名前があっても、この家にも、どこにも存在してたことを感じられない

怖い…、このままずっと、オレはこの苦しさや虚しさを抱えたまま生きていかなきゃならないのか…？


左手の薬指…



ホントのオレを教えてくれ…

オレの全部を知ってる人は、誰なんだ…

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