LOVE CASTE … 恋哀階級 vol. ５

CASTE … １９７ ページ6

「…太…輔…」

柔らかみなど何も無い笑顔を向け、太輔はそう言い放った、一言の言葉も出ないオレを滝沢部長が庇うように、前に立ってくれた

「それは聞き捨てなりませんね…北山は確かに職務規定違反を犯しましたが、彼が持ち帰った資料は当社の研究内容の詳細ではありません、藤ヶ谷さん、あなたは今ウチの手の内を知ったと仰ったが、それは別ルートからではないのですか？」

滝沢部長の言葉に、黒川の表情がピクリと固まった、けど太輔は動揺することも無く、それどころか平然と滝沢部長の言葉を受け止めている

そして、クスっと忍び笑いを漏らすと目線を真っ直ぐオレに向け、口を開いた

「あなたは私を誰だと思っているんです？あの資料は、確かに概要程度のことしか書いてなかった…確かに凡人ならば、あの資料は流し読みくらいで終わるでしょう、…滝沢さん、私には2、3行の化学式があれば、その先を読み解く事など造作もないんですよ…、私を見くびらないで頂きたい！…今後は容赦はしません、製薬研究分野のトップシェアを取るのは何処なのか、世間とあなた方に教えて差し上げます、挨拶回りが残っております、…失礼致します」

圧倒的な威圧感を残して、太輔はオレ達に背を向け歩き出した


今度は、その後ろを黒川が付いていく…

「太輔っ！！」

オレの呼びかけに、歩みが止まる

オレの太輔なら、オレが呼んだら必ず優しい笑顔で振り返って…両手広げてその胸に抱きしめてくれた…


だけど今はもう、振り返ってはくれない…


「…お前、今幸せなのか？」

無意識に出た言葉は、今のオレが一番知りたいことだった


振り向かない太輔から、呟きのようなか細い…儚さを秘めた声が聞こえた…


「…幸せだよ…もう、服従の人生は終わったんだから…」



そのまま、何事も無かったかのように黒川CEOと、次の集まりに入っていく

本当に…何も無かったみたいに…





全てが、無かったみたいに…




そして、オレは知る…




これで、終わったんだ…






全部…────

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