LOVE CASTE … 恋哀階級 vol. ５

CASTE … ２０８ ページ17

「もうオレは桜来の望むようにしてやりたかった…もし桜来が願うなら、お腹の子をオレの子として一生愛していくことも考えたし、そうすべきなのかもしれないと思った…けど、桜来がオレに望んだのは、たった一言…《楽になりたい… 》だった…」

「…楽に、なりたい…？」

オレの呟きに、山下医師は微かに頷きふと視線をその日に向けた…

「結婚しても、桜来には一日も心安らぐ日などなかったんだよな…オレがいつかどこかに行ってしまう不安しか与えてやれなかった…上手く誤魔化してるって思ってたのはオレ1人…自分しか見えてなかったオレの傲慢さが、桜来と宏光両方を傷付けた…、離婚届は桜来が渡してきた…《もう誰のコトも心に置かない、ただ、この子の幸せだけを考えて生きていきたい…冷たく凍えていく心をどうか解放してほしいって…、それが桜来の心からの叫び…そして願いだった…」


目の前の人は、それきり黙り込んでしまった…
傷つけることしか出来なかった時間と日々を、この人が心の底から悔いているのが、オレにもよく分かった

「これで桜来への償いが終わったとは思っていない…俺に出来るのは、二人を傷付けた分…自分も同じだけ温もりを遠ざけて生きてく…」

山下智久は、そう言ってフワリと微笑んだ
その笑顔には、今まで無かった潔さが含まれていた…覚悟の決断、それをオレに伝えてきた

「山下さん…」

「これからは一人で生きていく…そう決めた…オレにはそれが合ってる…、もっと早くそう決断すべきだった…、そうすれば全てが違う結末になっていたかもしれない……すまなかった…太輔…」


頭を下げる山下医師に今のオレが何を言えるのか…言えること、言わなければいけないこと、…それは…


「それでも、宏光を一緒に連れて行くことは出来ませんか？」

オレの言葉に、山下医師は少しだけ目を見開いた

「なぜ？」

「…宏光はまだあなたに心を残してる…オレは、この先宏光を守っていくことはもう出来ない…オレが守らなきゃいけないのは、この傾きかけたMARS製薬とその社員と家族の人生だ…」

ふと見た窓外…

オレの心を表してるような鈍色の空からは、ボツボツと雨が降り始めていた…


雨の日はいつも…
公園で泣いていたあの人を思い出す…



全身で、オレの目の前いるこの人を想い、泣いていた宏光…

もう、全てから解放してあげなきゃいけない…
抱きしめ、激情のままこの腕に閉じ込めてたら、苦しむのはあの人だ…



「…幸せに、してあげて…」

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