LOVE CASTE … 恋哀階級 vol.３

CASTE … １２０ ページ26

｢黒川太輔くん…｣

背後から聞き覚えの無い声が、その名を呼んだ…
既に自分とは無関係なはずのその名前に、咄嗟に足が止まる

じわり…と背中に冷たい感覚が走った

誰だ…捨てたはずのオレの名前を知ってるなんて、あの男が差し向けたヤツなのか…

幼い頃から、あの男の意に沿わぬ結果を出す度に身が竦むほど激しく叱責された記憶が戻ってくる…振り向くことも逃げることも出来ず、オレはその場に立ち尽くした

手に持った買い物袋の重みさえ感じないほど、オレの神経は背後にいる男に集中していた

｢…それとも藤ヶ谷太輔くん、の方がしっくりくるのかな？…なぁ、宏光との晩メシ…今日は何作るの？｣

軽い口調には、オレへの敵意がありありと感じられた

そして宏光の名前が出たことで、オレの緊張感はほんの少しだけ緩みを覚えた


振り向いた視線の先にいたのは…

｢アンタ…なんでその名前…｣
｢ｸｽｯ…へぇ、オレのコト分かるんだ…プラネタリウムで会ったきりなのに｣

キレイな顔に冷淡な笑みを浮かべ、宏光が未だに想いを引き摺ってる《トモ》が目の前にいた

｢取り敢えず車に乗ってくれるかな、こんな場所で話せる内容でもないし…｣
そう言って、後ろに置いてある高級ドイツ車を顎で示した

｢オレがココに来た内容が知りたいなら、乗れ！｣

有無を言わさないある種の迫力を醸し出し、《トモ》はオレを助手席に追いやった

そのまま車は音もなく、静かな発進を促された

｢初めまして、では無いかな…山下智久といいます｣
一瞬にして冷淡な表情から、思わず目を奪われる程のキレイな笑顔を向けてくる、けどその黒目がちな瞳には、オレへの明らかな挑発が垣間見えた

｢何の用だよ、黒川…って、なんでアンタがその名前でオレを呼ぶんだっ！？｣
｢…気に入らない？なら別の名前で呼ぼうか？、MARS製薬の中枢…《GREATNESS GENIUS》…キミだろ？｣

薄く微笑みながらその名を口にする…オレの全身の熱が一気に冷めていった…

何一つ言葉に出来ないオレに、《トモ》が追い打ちをかけるように口を開く

｢キミの会社、ウチの病院に新薬契約締結の話を持ってきた…《JーSTAR製薬》ではなくMARSを選んでほしいってね…｣

｢MARSを？…どういう事？アンタの病院…って｣
｢相澤総合病院だ、知ってる？｣

それはまさしくあの男がターゲットとして照準を合わせていた病院だった


｢藤ヶ谷太輔、…お前の返事しだいで、宏光の仕事での立ち位置が大きく変わってくる…｣

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