LOVE CASTE … 恋哀階級 vol.３

CASTE … １１９ ページ25

それからの宏光は、本当に忙しくなっていて家に帰ってきてからも部屋で仕事をすることが多くなった

時々、疲れた表情をして部屋から出てくる…理由を聞くつもりは無い、大きな仕事を抱えてるんだろうというのは分かるけど、ソレについてオレが何かを言える立場でもなかった

オレに出来るのは、部屋から出て来た宏光にコーヒー入れてあげることくらいしかなくて…
でも、オレの入れたコーヒーを｢ありがとな…｣って言って美味しそうに飲んでくれるのが嬉しかった

宏光は甘いのが得意じゃない、でも少しでも疲れが取れたらってマヌカハニーって言うハチミツ入れたり、カフェラテにしてみたり…オレの出来ることで宏光が笑ってくれるのが嬉しかった

触れることは出来ないけど、いつも同じ香りを感じられるコトが、オレのささやかな…けど何よりも守りたい《幸せ》だった…


けど、その《幸せ》に望まない変化が起きようとしていた


｢さて、今日は何を作ろうかな…｣

最近は専ら商店街で買い物を済ませていた

最初に行ってたスーパーが出来たからか、この商店街もシャッターがしまっている店も多い…けど、その分来てくれる客を大切に思ってるのがわかる

気さくに声を掛けてくれる、まるで昔からの知り合いみたいな感じで、その素朴な人柄もおれは気に入っていた

｢太ちゃん、今日はカボチャが美味しいよ｣
｢そうなの？じゃそれにする、後は…｣
｢大根も使い道色々あるよ｣
｢じゃそれも！｣
｢毎度ありがと！トマトおまけしとくね！カノジョさんに食べさせてあげな、リコピンは美容にも疲れにもイイからね！｣

カノジョ…ねぇ…厳密に言うと違うよなｗｗ
でも、混乱を招くのもなんだしココはスルースキルを磨くということで！

｢魚屋のいっちゃんが最近太ちゃん来ないって寂しがってるらしいよ、寄ってあげなよ！｣
｢うん、ありがとう、そうする！｣

いっちゃんは、魚屋の看板犬だ
オレが行くとめっちゃ尻尾振ってくれるから可愛くて堪んない！もうおばあちゃん犬だけど、けっこうな美人さん、肉屋で端切れもらって行こかな…

道順を考えながら買い物をするのは楽しい

宏光と出会わなければ、こんな世界も知ることはなかった…ガラスの檻の中、目が痛くなるほど白一色の空間で、時間の流れも季節の移り変わりも知らずに、ただ研究に追われるだけの日々


もう帰らない…


ずっと宏光と一緒に、風の音や雲の流れ…空の変化を楽しみながら暮らしていくんだ…





｢…黒川太輔くん…｣

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