あんちゃんが泣いた夜

オレらのあんちゃん …３ ページ4

｢はよ…、あ、台本来たの？｣
｢おう、はよ…うん、昨日な！…稽古までにセリフ覚えていかねぇとな、あーオレ覚えれっかな…｣

時間よりかなり早めに来てたのか、会議机の上にコンサートの台本と舞台の台本を置いて、北山はブツブツ言いながらセリフを頭に叩き込んでいた

田村さんは臨機応変型のプロデューサーさんだ、一語一句覚えても流れでセリフ変えてしまうこともある、でもそれが舞台の醍醐味、アドリブは当たり前、時にはムチャぶりも…けど、その中で瞬時に対応できる能力が培われるのが舞台だと思っている

あ、もちろんバラエティもですけどね！


｢どんな話？｣

｢ん？…うん…｣
て言ったまま、北山は口を噤んでしまった

なんだ？なんか今オレ変なこと聞いたのかな？
地雷は無いよな？

内心焦りながら北山から少し離れたソファに座って、オレはこの気まずさまでも感じてしまう空気をどうしようかと思い、意味もなくケータイを出して画面に目を移した

ちょっと小さく息を吐く音がして、北山は台本に目を置いたまま話し始めた

｢家族を捨てて出ていった親父を憎み続けてきた主人公がさ、大人になってから戻ってきたその親父と対峙する話…かな？｣

そう言って、北山はフフ…と笑った

そか…

口篭るには、ワケがあるんだ…

北山は、子供の頃に苗字が変わってる
一人っ子でずっとお母さんと2人で暮らしてきた

メンバーの中でも一人っ子は北山だけ、そして家族がお母さん一人なのも、北山だけだった

だから北山は、お母さんに優しい
何かあれば、よくＴＥＬをしてるのを見てきた
マザコンていうよりは、一人で暮らしてるお母さんが心配なんだろうと思う


似てるんだ…
自分の状況と…


｢…しんどいか？｣
つい、そんなコトを聞いてしまう自分に《いや、今はこのセリフじゃないよな》とツッコミながら、台本に目を置いたままの北山を見つめた

｢セリフ覚えか？まあなあ、やっぱアラサーだしな、物覚えはちょい劣化してるかもw｣

茶化すような言葉とケラケラした笑い声…

オレの言葉の意味をわかってんのかそうでないのか…けど、オレには今の北山が感じてる、ほんの少しの寂しさを見てしまった


｢北山なら、きっといい舞台創れるよ｣
｢見に来るか？｣
｢あー時間合えばな！｣
｢マジかよ、ソコは合わせろよｗｗｗ｣

笑いながら合わせてくる目線を、今日もオレは外してしまう



行くに決まってんじゃんか…






どうして、オレはそう言えないんだろう…

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