One Kiss！！…４

チャラくNIGHT？…１７２ ページ31

｢涙も枯れるほど泣いた後、太輔くんはご住職に聞いたそうですよ、《自分の父と母はどこにいるのか》…とね｣

そう、住職様はよく私にこう教えてくれた

《お前が美しいと思う全てのものに父と母はいる…それは野に咲く花かもしれぬし天にある星かもしれぬ…白く輝く月かもしれぬ…太輔、誰かを思う気持ちはどれも尊く美しい…心の中に美しい気持ちをたくさん持ちなさい、そうすればお前の心には、いつもご両親がいて下さる…寂しくなったら、美しいと思うものを探しなさい》

幼い私は住職様にそう言われ、綺麗な花を見つけると住職様に見せに行った
星を見る時は住職様に肩車をしてもらって、月夜には一緒に団子を作った

｢ご住職は、花を育てている時の太輔くんの笑顔がお好きだったようです…、あの日、寺に戻られそのまま花畑に行かれたのは、花畑に咲く花に太輔くんの幸せを見ていたのでは無いでしょうか｣

｢私の…幸せを…｣


｢もし、太輔くんがそうしたいのなら私達は反対はしません、星川を通じて次の凛堂寺を任せられる人を探します…あなたは、ご自分の進むべき道を真っ直ぐに歩けばいいのですよ…｣

還俗すれば…何かが変わるのだろうか…

私は…私だ…
私の進むべき道は、決まっている…

｢宏哉さん、私はここでしか生きられない人間です、進むべき道は一つ…ご心配をお掛けして申し訳ございません…住職様の４９日が終わりましたら本山に向かいます…｣

迷いはもう無かった…

幸せの形は人それぞれだ…あの人に出逢えて束の間でも心を繋げることが出来た…私の幸せはその時間…その想い出さえあれはもう、何も望まない…

｢そうですか、承知しました…では太輔くん不在の間は、星川と総代の北山が責任を持って凛堂寺の管理をさせて頂きます、どうかご安心下さいますよう…｣

｢はい、ありがとうございます、宏哉さんを始め星川さんがいて下さるなら凛堂寺の事、心配は何一つございません、修行中の僧侶含め宜しくお願い致します｣

深く頭を下げ、姿勢を直すと宏哉さんがいたずらっぽい笑顔で私を見ていた

｢あの…何か？｣

｢太輔くん、実は今度シンガポールに海外支社を立ちあげることになりました、そこを足掛かりに世界に打って出るつもりです｣

唐突に始まったビジネストークに、少しだけ不思議な思いが浮かぶ

｢そうですか、…それはおめでとうございます｣


｢その海外支社に出向する社員を、選抜試験で決めようと思っています、その中には宏光がいます…｣

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