One Kiss！！

チャラくNIGHT？…４３ ページ44

｢良かったな、太輔…｣
｢何がですか？住職｣
｢北山の息子は、思ったより上手くやっていってるようじゃないか｣

ある日の午後…住職の部屋で依頼の法事の打ち合わせをしている時、こんな会話が始まった

開け放した障子の向こうには、心海と一緒に境内の草取りをしてる宏光がいた

私語禁止のハズだけど…まあ、大目に見ようかな
と思わせるくらいいい笑顔をしてる

寺に来てから二週間…

宏光は与えられた修行をどうにかこなし、周りの僧侶達とも調和をとっているようだった

宗純さんとは、反りが合わないようだけどソレは仕方ないかな…大きなトラブルもないコトだし…

｢あの人は、やればできる人ですから…｣

何気なくそういったけど、住職はさも可笑しそうに声をあげて笑った

｢私、なにか変なことを言いましたか？｣
｢いやいや、まるで彼の全てを知っているような口振りだからな、オマエがそんな風に誰かのコトを言うのは初めてだな｣

楽しげに目を細めて、揶揄ってくる
もう、この人はホントに…

｢そうですか？｣
｢お前は昔から中々他人に心を開かない所があるからなぁ｣
｢今でも取っ付きにくさは折り紙付きですよ｣
｢北山宏光以外には…だろう？｣
｢住職！、お言葉ですが…｣

思わず言い返そうとしたけど、住職の満面の笑みに続く言葉が出ない

その代わりに、気になっていることを尋ねた

｢…彼の父上からは何かお話はあったのですか？兄上はまだ見つからないのでしょうか｣
｢まあそれなりに情報は入ってきているが、特に目新しいことは無い、宏光を宜しく頼むとそれだけかな…｣
｢勝手なものですね…｣
｢そう言うな…その家のコトは他人には分からないものだ…批判をするのは簡単だが、私達はそれ以上に理解するコトに努めなければならない｣

｢それはそうですが…｣

｢…約束は思い出してくれそうなのか？｣

思いがけない住職の問いかけに、書付けの手が止まる…

｢いえ、…もうそれはいいです｣
｢ずっと楽しみにしていたのに？｣
｢あれは子どもの戯言ですよ、もう忘れました｣

そう、本当に小さな…ささやかな約束だ…

｢その約束からお前がずいぶん変わったように思えたがなぁ｣
｢…変わるキッカケを与えてくれたのですから、もう、それでいいのです｣

そして、また境内にいるその人を見る
初夏の陽射しを跳ね返すような眩しい笑顔…


理由はどうあれ、こうしてまた会えたんだ
それでいい…


｢ホントにお前は、悲しいほどに一途だな…｣

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