雪華 … Snow Crystal ６

Kanon：１５ ページ12

一人ぼっちの部屋…窓を開け、昼間の籠った生ぬるい空気を入れ替える…

入ってくる風は、梅雨の時期特有の湿気を含んでいて、不快感のほうが強かった

ある程度入れ替えが出来ると、私はすぐにエアコンのスイッチを入れた

殆ど制服になりかけてる白のブラウスを脱ぐと
ローズの微かな香りが花を掠めた
咲坂の香りだ…

紳士的な顔立ちをしているけど、いわゆる一般の人では無いのは私にも分かった
恐らく、雅喜と同じ世界の人

雅喜は私に交際を申し込んできた時、自分の立場を隠すことなく話してくれた…聞いた時は驚いたけど、私に向けてくれる雅喜の優しさには偽りが無かった…むしろ隠さずに話してくれたことで、雅喜への信頼は私の中でより大きくなった

この人とずっと一緒にいたい…

心からそう思えたのは、雅喜が初めてだった
いつか雅喜と…

でも、ソレは叶わない夢で終わろうとしていた…


《アナタの意思で見ればいい…》

渡された封筒の中には、きっと知りたくない現実が入ってる…ソレは幸せとは程遠いモノだ…

見てしまえば後戻りが出来なくなるのは分かっていた…

それでもどこかで、ウソであって欲しいと思う気持ちを捨て切れない私がいた…

《ご自分の目で確かめてみればいい…どうするかは…》


指先が震えて、封が上手く開けられない…
早鐘の様に鳴る心臓の音を感じながら、私はどうにか封を開けた

入っているのは何枚かの写真…

祈るような想いで、私は封筒から取り出した


雅喜……



そして私は……本当に、もう夢は叶わないコトを知った…



そのまま床に落ちていく写真…

雅喜とあの人が、雨の中で抱き合ってる姿だった…


涙も出なかった…

私は、今どんな顔をしているんだろう…


取り出した鏡は、蜘蛛の巣の様にヒビが入っていた…そこに映っている私の顔は、滑稽なほどひどく歪んでいた…

心と同じだ…私の中の何もかも…歪んでる…


封筒に残っていたカード…
《咲坂伊織》の名前と１１桁の数字が書いてあった…

無意識に私はその番号に発信していた
数回のコールの後、繋がった音がした


｢…シンデレラ？｣
｢お願い、魔法をかけて……あの人を、北山宏光を……｣

私の願いを聞いた魔法使いは、喉の奥で低く笑った…勝ち誇ったようなその声が、私には別世界から聞こえてくるように思えた

私を支配しているのは、あの人への憎しみと嫉妬だけ…赤黒いシミが自分の掌に見えた


｢いいよ…可哀想なシンデレラ…アナタを幸せにしてあげる…｣

Kanon：１６→←Kanon：１４

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す