Memento ー ４

想い人 … １５３ ページ10

「……」

腕時計が示す時間は、ゆうに家を出てから半日が過ぎていた、待合を離れた間に奏のお父さんが病院を出てしまうかも…と、飲み物だけを買い足しながら時間を過ごした

外来はとうに診療時間を終わっていて、待合の照明は薄暗く落とされていた

ナースステーションには灯りが灯り、制服を着た看護師さん達が忙しく動き回る見慣れた光景が広がっていた

「必ず会って話をする…、分かってもらうんだ…」
手にしたカフェオレを飲み干し、うん！と頷いた時、ナースステーションから誰かが出てきた

コッチは薄暗くて視界がはっきりしない…、廊下に目を凝らすと、人影は僕の方に向かってゆっくり歩いてきた、その人の顔が常夜灯に照らされた

「…っあ！」

その人は僕の前で立ち止まり、手に持っていたモノを渡してきた

「…飲みなさい、朝から何も食べていないんだろう」

そう言って渡されたのは、あったかいカフェオレだった

「…ありがとう…ございます…」

何だか目の前の事が不思議すぎて、コーヒーと奏のお父さんを交互に見てしまう

そんな僕を、奏のお父さんは困惑した表情で見てきた、そして長椅子にに座るよう目配せしてくる、僕が腰を下ろすと、少し距離を開け同じ椅子に座ってきた

「…君はいつまでココにいる気なんだ？」
「お話を聞いて頂けるまで、います、なので、お仕事終わられるまでいるつもりです」

そう答えると、目の前の人は長いため息を吐き、困ったように眼鏡を触った

「…なぜそこまで？…奏とはこの春に会ったばかりだろう？一時の気の迷いじゃないのか？」

その問いかけに、僕は10年前の《あの日》を思い返した、水面を流れて来る無数の光と満天の星…、

「…僕と奏が会ったのは、もっと…前です」
「もっと前？」

「そうです、7歳の誕生日…、星祭りで僕は奏と会っています」

そう答えると、お父さんはハッ…と目を開いた

「あの七星通りの…七夕かい？」
「はい、10年前です…、あの日から、ずっと逢いたいと思っていました、だから奏が転校生として濱ガクに来た時…奇跡だと思いました」

職員室で再会した奏と、10年前の奏が重なり僕の心を大きく震わせたんだ…


「奇跡…？」
「はい、奇跡の出逢いに偶然は無い…、母にそう言われました、だとすれば僕と奏は…出逢うために生まれてきたと、信じています」

思いのままを伝えると、お父さんは何かを考える顔をした


「…奏は、自分の身体の事を君に話したんだろう？…その事に、嫌悪は無いのか？」

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