Memento ー ４

想い人 … １４８ ページ5

「おかえり結永…、晩メシすぐ食べられるから、手洗って着替えて来い」

玄関入ると、かーさんがキッチンから出てきた

「うん、…とーさんは？」
「太輔か？今日取引先からの接待あるらしくて遅いんだってさ、晩メシ要らないって連絡あった」

少し残念そうな顔、とーさん忙しそうだし、かーさん寂しいんだろうな

些細な事でも変わらない仲の良さが見えてくる

着替えて降りると、テーブルには出来たての晩御飯が待っていた

「結永、いっぱい食べろよ、接待急に決まったらしくて、太輔の分も作っちまってたからなぁ…」
「ふーん、コレ美味しいね」
「だろ？横尾レシピ！味玉入の煮豚」

ウマウマって顔でモグモグしてるかーさん、とーさんはいつも｟安定のモグみつ降臨だなぁ｠て楽しそうに笑ってる

奏…、今日は一人で食べてるのかな…
お父さん、お医者さんならきっと夜勤もあるだろう、一人で食べるご飯は、味気ないものなんだろうな…

そう思うと箸が止まる…

「どした？口に合わない？」
かーさんがキョトンて、僕を見てきた

「違うよ、…凄く美味しい」
「そか、ならいっぱい食べろよ」

「あのさ…かーさん…」
「ん？」

「とーさんとかーさんて…家族になるまで色々あった？」

ふと湧いた疑問を口にすると、かーさんが顔をあげた

「…なんでそんなこと聞くんだ？」
「ん？…うん…」

さっきまでの出来事を思い出して、僕は口篭った

「奏くんか？何かあったのか？」
「…気持ちを繋げ合うのって、自分たちの問題だって思ったけど、そうじゃないんだなって…」

どうすれば、会ってもらえるんだろう…
考えれば考えるほど、八方塞がりの今を変えていく手段が見えなくて…

「あったよ…」
「え？」

「もうダメだと思うこと、何度もあったよ…オレと太輔を繋いでいた糸は、本当に細くて脆かったから…」

「…かーさん」
「その糸を何度も結び直した…切れても切れても、手探りで…必死になってその糸を探して…」

懐かしさとほんの少しの切ない表情で、かーさんは話し始めた

「もう止めようって思ったこと、無かった？」

「そだな…全く無かったって言えば嘘になる、でもその度に太輔が自分の想いを真っ直ぐ伝えてくれた、嘘のない瞳で見守ってくれた、だから信じられた、だから…今がある」

「……」
「いっぱい泣いていっぱい苦しんだ、でもそれが今の幸せに繋がってる、そう思えばあの時間は必要だったんだと思う、傷つかなきゃ分からないことも、人生にはあるから…」

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