Memento ー ４

想い人 … １８０ ページ38

月城桜也の一言が、まるで鋭い錐のように胸に突き刺さる、その痛みを逃そうと無意識に手を胸に当てた


「奏、どうしたの？食べ過ぎで気持ち悪い？」

気遣う眼差しをオレに向け、結永が聞いてくる、どう答えようかと迷いが生じた

「違うよ、そんなこと無い、あの…そろそろウチに帰る時間だから、」
「あ、そか、…そうだね」

結永が壁の時計を見て、残念そうな顔をした

「ゴメン、あまり遅くならないようにするからって、お父さんと約束したから…」

取って付けた様な理由を口にしながら、オレはこの場にいる人達の視線から逃れる様に、俯いた

沈黙とは、これほど重苦しいものなのか…


「それでは、私がご自宅までお送り致しましょう、どうやら小雨がパラついているようです」
落ち着いた低めの声がして、思わず顔を上げると、斜め向かいの皆川さんが薄く微笑んでオレを見ていた

「雨降ってるのか？」
結永のお父さんが立ち上がり窓辺に行くと、外を覗き込んだ

「あ、本当だ、霧雨かな…」
「本降りになる前にご自宅まで送らせてもらった方がいいかもしれないな、皆川さんお願い出来ますか？」

結永のお母さんの言葉に、オレの方が慌ててしまう

「大丈夫です、歩いて帰れます」
「雨に濡れて風邪でも引いたら大変だよ、皆川、頼む」
「かしこまりました、…奏さん、車寄せにお付けしますので、少しお待ち下さい」

「いえ、オレなら大丈夫ですから！」
こんな大事にするつもりないのに…、困って結永の顔を見ると、いつもと変わらない優しい顔で「そうしてもらった方がいいよ、夜道は暗いし何かあったら奏のお父さんに申し訳ないから」
と言葉を続けてきた、そして「皆川さん、奏をお願いします」と軽く頭を下げた

「結永…」
「…僕は課題が残ってるから、一緒に送っていけないけど、一人で大丈夫だね」

と聞いてきた
「そんな子供じゃねぇよ…」と返すと、結永がうん…と頷いた

結永とオレの間には、少し温度差のある空気が流れて居るように思えた

その違和感を払拭するかのように、お母さんがニコッと笑い「ちょっと待っててな」とキッチンに行った、そして可愛い紙袋を一つ下げて来た

「コレ、お父さんと食べな、ニカ特製のバナナケーキ！結永のオキニだよ」と、渡してくれた

「ありがとう…ございます…」
「このケーキ凄く美味しいんだよ」と結永が笑って教えてくれた

その時ドアホンが鳴った、応答に出たお父さんが「用意できたよ、車寄せに行こう」と促した

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