Memento ー ４

想い人 … １７１ ページ28

音楽室のピアノは、どんな気持ちも受け止めてくれる

不安や悩み、そして喜びや、待ち遠しさも…

モノトーンの鍵盤に指を滑らせると、オレの想いにそのまま彩(いろ)を付け、音にしてくれた

音楽室は黄昏色に染まり、大好きなショパンのワルツを弾きながら、結永の優しい顔を思い浮かべた

窓から差し込む日が、音楽室の床に影を作る、フルコンのピアノから伸びる影は、ピアノの大きさを表すかのように、床の積の大部分に広がっていた

目に入った時計…

あ、もうすぐ部活動終わるんだ
そう思った時、何となく…結永がバスケしてるのが見たくなった

コートを走りながら、緻密な計算でゲームを組み立てていく結永の顔は、凛々しく雄雄しかった

邪魔にならない場所で見るなら良いよな…
結永から見えない場所なら

何となく楽しいイタズラを思いついたような気になり、オレはピアノのフタを閉め音楽室を出た


渡り廊下を通り、体育館に向かう
どの部活も終わりかけらしく、通る生徒達は、今日に満足した表情で歩いていた

風を入れる為に開け放した扉から、コソッと中を覗く

「わ…」
紅白戦だろうか、赤と白のビブスを付けた選手が、縦横無尽に動きボールを廻していた

「…あ…」

その中に一際目立つ赤のビブス、エースナンバーの４を付けた選手に、オレの目は吸い寄せられる

ネコ科特有のしなやかさを思わせる動きで、相手を抜きゴールを奪取する結永

形勢の変化に即座に身を翻し、次は自陣を守る為に瞬時に指示を出す、普段は穏やかな結永の眼差しが、狙いを定めたスナイパーの鋭さを見せる

キレイだ、と思った

あの人は、本当に光の中で生きる為に生まれてきた人…


目を奪われるその姿を追い続けていた時


「久遠さん？」
と背後から声を掛けられ、背中が反応した

ハッと振り返ると、首を傾げ、真っ直ぐな黒髪
を耳に掛けながらオレを見る月城桜也が居た、手にしたカゴにはタオルやらスポーツドリンクのボトルが入ってる

そか、この子…マネージャーだった

「さっきから何してるんです？覗き見？」
「覗き見…って…」

そんな風に言われ、何だかひどく悪い事をしてる様に思えて、口篭ってしまう

月城は、軽く鼻で笑う様な仕草を見せた後、体育館の中に顔を向けた、そして瞬時に目元を綻ばせ、紅くふっくらとした唇が弧を描く

「…ね、結永さん、カッコイイですよね」

視線が熱を帯びた気がした
同意だけど、それを口にするのも何だか気恥ずかしくて、オレは俯いた

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