Memento ー ４

想い人 … １５８ ページ15

「…奏、薬…飲んでるの？」

自転車を走らせながら、僕は気になってた事を尋ねた

薬の服用を止めない限り、奏は副作用に苦しみ続ける事になる、僕はどんな奏も受け入れる事を決めていたから、これ以上体に負担を強いる
服用は止めさせたかった、奏のお父さんにもその事をお願いした

「…飲んでるよ」
お腹に回された手にほんの少し力が入る

自転車を止め、その手を握り振り返った

「どうして？、もう辛い思いしなくていいんだよ、お父さんにもそう話した、服用を止めたことで奏にどんな変化が出ても僕はそのままの奏が好きだから…」

「いいんだ、薬の服用を続けるのは自分で決めたことだから」
「えっ！？」

てっきりお父さんに服用止めること許して貰えなかったのかと思ってたから、奏の言葉に僕は驚いた

「だって…奏、飲むの止めたいって…」
「うん、…無理やり飲まされるのはイヤだった、でも、コレからは自分の意思で飲む」

「自分の意思で？」
思いがけない奏の返事に聞き返すと、ニコッと笑い頷いた

「あの薬を飲む意味が自分の中で見つかったから」
「飲む、意味…？」

「今はこのままがいい、自分にも周りにも大きな変化を望む時じゃない、…オレは結永とこの先もずっと同じ位置に立ちたいから、薬を飲むよ、それに…」

「それに…？」


「結永の傍にいると、しんどいの…無くなる…」
恥ずかしそうに目線を反らせながらそう言ってくれる

「ホントに大丈夫なの？」
頬に手を添えながら視線を合わせると、榛色の瞳が奏の気持ちを伝えてきた

「大丈夫…」

柔らかいイントネーションだけど、ハッキリとその意志が見て取れる、それなら僕がしなきゃならないことは一つしかなかった

「わかった…、でも辛い時は言って欲しい、無理だけはしないで」
「うん…、あ！時間結構経ってる！遅刻すっぞ！ほら、サッサと自転車走らせろ！ホラホラ！」

腕時計を見せながらイタズラっぽい表情で僕の背中を叩き、急かしてきた

「うわっヤバい！！奏、ちゃんと捕まって！全力疾走するから！」
「がんばれー！」

こんなに楽しそうにはしゃぐ奏を、僕は初めて見た


もっと色んな奏を知りたい…
そして、僕の中に新しい奏を沢山残したい



春が過ぎ、夏を迎え、秋が往き、冬を超えて…
移りゆく時間と景色に、僕と奏を存在させていきたい…


奏…

大好きだよ…



背中に掛かる重みと温かさが、この時間が夢ではないことを教えてくれていた

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