Memento ー ４

想い人 … １５７ ページ14

「山下か…」

ディスプレイの名前を確認し、画面を触った

「律、その後どうだ？」
落ち着いた低めの声が耳に滑らかに入る

「奏のことか？それともオレのことか？」
「両方だ、変わりはないか？」

何を言ってる？を声のトーンに含ませ、山下が気遣いの言葉を続けた

「…そうだな、オレは格別の変化は無いよ、奏は…いい方向に向かうんじゃないかと思う」
「いい方向？何かあったのか？」

「オレ以外に、奏の心を受け止めてくれる人が現れたようだ」

青空に向かい真っ直ぐに伸びる若木の様な少年を思い出し、ふと笑みが零れた

「それは奏が恋人が出来た、ということか？」
「そうだな…、カギを掛けた奏の心を見事に解錠した様だ、…オレでも出来なかったのにな…」


《いいの、オレ…結永の事好きなままで… 》

昨日の藤ヶ谷くんとのやり取りを話すと、奏はかなり驚き、動揺する素振りすら見せた

彼との事を認めると話した時は、言葉を失ったようにオレを見つめ、本当にいいのかと聞いてきた

「良かったな、奏…」
「お父さん…？」

「お前の笑顔を取り戻してくれたのが、あの子で良かったと思うよ」

「オレ…結永を好きでいていいの？」

微かに怯えを滲ませた質問に、答えるべき言葉は一つだ

「人を想える気持ちが持てたなら、何よりだ…その気持ちを大切にしなさい」
答えを聞いた奏の、この上なく嬉しそうな表情に心が和らいだ、これで良かったんだ…と思った



「律、本音は寂しいんじゃないのか？」
忍び笑いが聞こえ、ふと意識を戻した

「まさか…、オレに何かあった時、奏が一人でないならそれが一番いい…」

願わくば、その日が一日でも先である様に…

「奏の相手は年上か？」
「いや同級生だ、…何度も奏に関わるなと言い渡したが、引き下がらなくてな…、その子の父親にも奏に近づかない様にして欲しいと伝えたが、息子は一時の感情でそんな事は言わない、本当に奏の事を想っているから認めて欲しいと言われた」

「なかなかしっかりした父親だな、家族の絆も強そうに感じる、…いい子なんじゃないか？」

「ああ…、結永を信じて欲しいと言われたよ」
会話を思い返し話すと、山下が息を詰めた

「結永…？奏の相手は結永というのか？」

「あ、ああ、…藤ヶ谷結永くんだ、…どうした？」
山下の様子が明らかに変わり、オレの方が驚いてしまう

「…そうか、結永が…」
「結永が…って、お前あの子を知ってるのか？



「結永は、オレが生涯でただ一人…愛した人の子だ」

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