君想う夢・君恋し花 …８

愛を育む人 … ５５ ページ8

「美味いなぁ、お前んとこの料理人、凄いやん」
「そか？」
「なんだか桃幻楼で食べてた時の味に似てる」
「そうだろうな、二階堂時々渉のトコに習いに行ってるらしいから」


テーブルに乗せられた色とりどりの料理は、ニカが大晦日から時間を掛けて作ってくれた、来客の予定も結構入ってたから、ホントに頑張ってくれてたよな


「うん、そうみたいだな、レパートリー大分増えたって喜んでた」


でも…、変だな、ちょっといつもと味か違うかも…
何となく、香りもキツい…

いつもは何も思わずに食べていた食材の香りが、やけにキツく鼻に感じてしまう

太輔が取り分けてくれた料理、いつの間にか箸が止まってしまった、自分でもよく分からない味覚の変化に、オレは皿の上の彩り達をじーっと見つめた


「どした？あんま箸進んでないけど？」
太輔が不思議そうに、そして心配げに見つめてくれる

「いや、なんでも…なんかココんトコ食べ過ぎてるかも、…今はいいや…」
「大丈夫？」

ユリアさんも、手を止めオレに労りの視線を向けてくれる、大倉くんも…

「あ、全然そんな…、へーきへーき」
慌てて笑って見せると、皆の顔にも同じ笑みが浮かぶ、和んだ空気にホッとして彩りの中で食べられそうな物を口に入れた、その瞬間に胃から迫り上がる違和感、

「オレ…ワイン貰ってくる…」
顔を見られないように俯き加減で席を立ち、足早にリビングを出た

でも、向かうのはワインセラーじゃない…


直ぐに洗面所に駆け込み、不快感を全て吐き出した


「ハァ…なんだろ、気持ち悪い…ﾔﾊﾞ」
なおも込み上げる酸味のある液体を吐き出し、口を漱いだ

滅多に無い体の変化に、オレは顔を洗い鏡を見た、いつもより血の気が無い…おかしいな…


風邪引いたのかな…


風邪…？

そして、ふと思いだした

これと似た症状を経験したことを…



「え、まさか…ホントに？」

トモに連れられて訪れたホテルでの出来事

太輔との再会に胸を震わせた時に、トモから告げられた《妊娠》の事実

確か、あの時も今と同じ様な体調の変化があった

太輔とは、この前のHEATの時に番った
HEATは排卵期に起こる典型的な症状だ

もしかして…


腹に手を当て、その日を思い出す
あの時、太輔もオレも避妊はしなかった


オレ、太輔との子を…？

不安では無く、純粋な喜びが胸に湧き上がってきた

「でも、まだ確定じゃない…まだ言えないよな、…そうだろ？」


そっと両手を腹に置き、芽生えた命にオレは問いかけた…

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