君想う夢・君恋し花 …８

愛を育む人 … ８８ ページ43

「太輔…なんで…？」

悲壮感すら漂わせ、宏光がオレに問いかける…
痩せてしまった事で一層大きくなった瞳に水の膜が張り、直ぐに弾けて頬を流れ落ちた

「失いたくないんだ…お前を…」
触れようとした手は、宏光の心の声を表すように、荒く勢いを付けて払い除けられた

「触るな…っ、オレにもこの子にも触るな！帰れっ！！」
「聞けよ宏光っ！！」
「聞かねぇよ、てめぇと話すことなんかなんもねぇよ！！出てけっ！」

悲しみと苛立ちで、宏光の周りの空気が熱を持ったように思えた

「ちゃんと話するから…っ、オレの話聞いてくれよっ！」
「イヤだっ！この子は生きてる、今生きてるんだ！！無かったコトになんかぜってぇさせねぇ
！！」
「宏光っ！！」
「離せ触んなっ！！」

興奮して振り上げた腕が、点滴のスタンドに当たり激しい音を立て床に倒れた

その弾みで点滴の針が腕から抜け、切れた血管から血が腕を伝う、その痛みすら今の宏光の動揺を止めることは出来なかった、

何もかもを寄せ付けない手負いの獣…、それでも腹に手を当て必死に子を守ろうとする姿は、息を飲むほど鬼気迫るものがあった

「出てけ…」

オレを睨みつけ荒い息を繰り返していた宏光が、不意にベッドの縁から床に崩れ落ちた

「ひろっ！！」

「北山さんっ！どうされました！？」
物音を聞きつけた看護師長が、慌てふためいて病室に来るなり、直ぐに「院長先生を呼んで！！」と看護師に指示を出した

オレには目もくれず倒れた宏光の脈を取り、そして、何度も確かめるように腹に手を当てた

「お腹は打ってないみたいね…良かった…」

「オレのせいで…ひろ…宏光…」
「外へ出てください、貴方がいたら処置が出来ません！」
「ですが！」
「指示に従って下さい！！」

有無を言わせない強い口調と、飛び込んできた四宮先生に押しのけられ、オレは目の前で起きた状況に戦きながら病室を出た

閉められたドアの向こうで、何が起こってるのか…、出来るのは後悔と悲嘆に拳を握り、その場に立ち竦むことだけだった

そして…どのくらいの時間が経ったのか…、四宮先生と師長が出てきた


「宏光…四宮先生、宏光は！？」
「大事には至ってません、倒れた時に無意識にお腹を庇っていた様です、お子さんも特に心配はありません…」

「そうですか、あ…良かった…」

込み上げる安堵から口を抑えそう言った瞬間、頬に痛みが走り、オレは目の前の人を見た


「これが宏光さんの怒りと悲しみです、なぜあんな事を？」

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