君想う夢・君恋し花 …８

愛を育む人 … ８６ ページ41

「お気持ちはよくわかります…、今の宏光さんを見ている事がどれほど辛いかも…、ですがこの件は貴方お一人で決めることではありません、一時の感情で芽生えた大切な命を無かったことにするのは絶対に許されない」


四宮先生の諭しに、オレは首を縦に振れなかった

理性を超える恐怖が、オレを黒く濃く浸していく

「ですが、この子が産まれたとしても数年後には宏光はオレの世界からいなくなるんですよね、そんな亊耐えられない…」

「例えそうでも、貴方の元にはお子さんが残ります、お二人の絆を結んだ証が傍にいます、子どもは必ず大きな意味を持って生まれてきます、どうか直ぐに結論を出すことは止めて下さい、医学は日々進歩しています、私は二人の命を繋ぎ止められる可能性は、十分にあると思います！」

「可能性…？そんなものがあるなら今すぐ見せてくれよ！オレから宏光を奪わないでくれ！」

縋る様に、オレは四宮先生の腕に指をくい込ませた、その手を強い力で握ると四宮先生はオレの目を見ながら口を開いた

「藤ヶ谷さん、本当に辛いと思います、ですが今は耐えて下さい、宏光さんが命を賭けて守ろうとしてるのは、他の誰でもない貴方のお子さんなんです！」


そんなこと、わかってる…

だからこそ…

オレのせいで、身を犠牲にして産むことになった命を、オレは最後まで愛することが出来るんだろうか？宏光と同じだけ守ろうとしてやれるのか？


出来る、と言いきれない自分がソコにいた…

黙り込むオレに、四宮先生がポン…と肩に手を置いた

「今はとにかく宏光さんの回復を待つ時期です、医師として最善を尽くすと約束します、ですからどうか軽はずみな言動は避けてください、宏光さんとお子さんを救いたいと思ってる人間は、他にも大勢います、その事を忘れないで欲しい…、すみません、私は診察があるので戻ります、貴方も少し休んだ方がいい…」

そのまま四宮先生は呼びに来た看護師と部屋を出て行った…

残されたオレは、一人…、窓から見える空に目を向けた


宏光と見る空は、例え曇天でもその上にある清々しい程に澄み渡る色を想像させた

それが今はどうだ…

どこまでも濁った…鈍い色…

あの人は、オレの光だ…、全てを照らしてくれる優しくて穏やかな光…


その光で、永遠を結ぶと誓ったんだ…


ギュ…っと全身が潰れそうなほどの痛みに包まれた、心が悲鳴を上げる…その意味が今、分かった


オレは、恐怖に取り憑かれた様に宏光の元に戻った

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