君想う夢・君恋し花 …７

愛を育む人 … ７ ページ8

「元々藤ヶ谷はアンタの会社だ、長男のアンタが継ぐのが正当だとオレだって思ってる、オレはあくまで二番手、トップという名前にもポジションにも、オレはなんの拘りもねぇよ、」

「なん…だと…？」

心底驚いた…と言う顔で、目の前の男がオレを見た

「オレが藤ヶ谷コーポレーションを再構築することを決めたのは、あのまま廓で一生を終える筈だったオレを、元の世界に戻してくれた御厨の恩に報いたいと思ったからだ、そしてこんなオレでも、何か一つでも役に立てることがあるなら、最大限の努力をすべきだと決めたんだ、でも…兄貴が本当に社員とその家族の為に、もう一度力を尽くしてくれると言うなら、オレは喜んで藤ヶ谷の名前を捨てる、元々オレはトップの器じゃない、デカい社長の椅子は似合わねぇよ」

兄貴は、オレの話を顔を歪めるようにして聞いていた

「お前…本気でそんなこと言ってるのか？バカか！？藤ヶ谷コーポレーションのトップだぞ？誰もが羨むほどの地位も名誉も金も、全てが手に入るんだぞ！？」

信じられない…と言う風に兄貴が怒気を孕んだ声音で訴えてきた

「オレはそんなものに興味は無ぇよ…人生で大切なモノは一つあればいい、オレはもうソレを手に入れた…それで十分だ」


思い描く未来には、きっとどの瞬間にもその人がいる
オレを見つめ、微笑み、そして寄り添い歩いてくれる…

その人こそが、人生最高のタカラモノだから…
その 、顔を思い浮かべた瞬間、喉奥から絞り出すような兄貴の声が聞こえた

「帰れ…」
「え？」
「もうお前と話すことは何も無い、帰ってくれ」

「兄貴…？」

「頼む帰ってくれ！これ以上…もうこれ以上オレを惨めにさせるなっ！！さっさと帰れッっ！！」

苛立ちを爆発させ、グイッとオレの腕を掴んだ

オレよりは体格のいい兄貴、掴まれた腕に指がキツく喰い込んでくる、そのままドアの外に放り投げられるようにして追い出され、激しい音を立ててドアが閉められた

「兄貴っっ！！」


この瞬間…オレの声も伝えたい言葉も想いも、全てがシャットアウトされた、目の前のドアが開くことは、もう二度と無いだろうと確信した

何の解決も見いだせず、ただただ己の無力さを痛感しながら、オレはホテルを出た


この先…兄貴とオレの道が交わることは無いんだろう、

父も母も居ないオレには、肉親と呼べるのは兄貴しかいない

出来ることなら…と思っていたけど、やはり叶わぬ願いになることを予感させた




「親父…ゴメンな……」

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