君想う夢・君恋し花 …７

愛を育む人 … １３ ページ14

「会社はオレの為にある、全てオレの意のままに動かして然るべき…そんな驕り高ぶったオレを正してくれたのは、太輔…お前だ、親父も役員達に同じことを言っていたのを思い出したよ…お前は、ちゃんと親父の信念を受け継いでる、…何も、見てないのにな…」

想いを馳せるような眼差しを空間に向け、吐息を漏らすように、淡く微笑んだ
兄貴の決意は固く、一点の澱みも見えなかった、

「遊馬に、なるのか…？」
「ああ、遊馬の名前を継ぐ者は、もう誰も居ない、母親を実家に戻すのを機に、オレも母親姓を名乗ることにした、再出発だ…それには藤ヶ谷の肩書きは必要無い、…オレも母親も、過去から解放された方がいい」

「決めたんだな…、ホントに」
「藤ヶ谷には、お前がいる…頼むな、太輔」

ポン…と兄貴の手が頭に乗せられた

「兄貴…」
「兄貴か…、まだ兄貴って呼んでくれるんだな、オレはお前に、死ぬよりも辛い目に合わせたのに…」
「兄貴は兄貴だろ…？オレと血の繋がった人は、もうこの世には兄貴しかいないんだから」

そう言うと、兄貴が小さく息を詰めた
そして俯き加減に目を伏せ、微かに口角を上げた

「そうだな…もっと早くその事に気付いていたら、あれほどまでお前と母親を苦しませることも無かった…、本当に済まなかった、太輔…」

掠れたような声が聞こえ、兄貴が深く頭を下げた

「そんなの…もういい…終わったんだ、全部…」
「そうか…」

「これから行くのか？」
「ああ、一足先に母親を旅館と同じ地域にあるサナトリウムに入れた、明日から遊馬ホテルの再建に力を尽くすよ、何年かかるか分からない無いけど、もしオレの手で再建することが出来たら、招待状送るな、…さっきのヨメさんと子供と遊びに来ればいい、…ﾌﾌ、サービスしてやるから！」

オレは、初めて兄貴の心からの楽しそうな笑顔を見た気がした

この人もきっと、苦しんでた…オレと同じだけの苦悩と虚無感を抱えて、ずっと一人で生きてきたんだ

藤ヶ谷から出ることで、新しい一歩を歩み始めたんだと思った

「うん、ありがとう…その日を楽しみにしてる」
「親父の想いを、お前が繋げてやってくれ、太輔…お前こそが藤ヶ谷コーポレーションのトップに相応しい、成功を祈る…いや、確信してる、…じゃな、行くわ」

「体に気をつけてな」
「お前もな、家族を大切にしろ…それから、コレ…」

胸元から一枚の紙を取り出し、オレに渡してくれた


「皆川の故郷の住所だ、お前に任せる…」

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