君想う夢・君恋し花 …７

愛を育む人 … １１ ページ12

「…え…？あすまを…さいけん…」

兄貴の言ってる意味が分からなくて、オレは耳に聞こえたそのままを口にした、けど言葉にしてもなお、単語と思考がリンクしない

兄貴は固まるオレを見ていたけど、ﾌｯ…と小さく息を吐いた

「だよな、その反応が正解だ、オレも自分の選択に驚いてるくらいだから…でも、これで良かったと思ってる…お前が背中を押してくれたようなもんだから、最後にちゃんと言っとこうと思ってな」

「《遊馬》って、兄貴の母さんの実家だろ…」
「ああ、よく覚えてたな、…昔は手広く色んな商売やってたらしいが、今は廃れた旅館が一軒残ってるだけだ、遠い親戚が営んでたが、このご時世だ、経営が上手くいかなくて手離すことにしたらしい…、オレに買わないかと持ちかけてきた…、藤ヶ谷コーポレーションを追われてから母親の体調が悪くてな、色々考えて母親を故郷に戻すことにした、人生の最期くらいは穏やかに過ごさせてやりたいしな…」

「そう、なのか？」

御厨からも、その事は聞いていた
時代の変化に心も体もついて行けなかったようだ、と…そんなに悪かったのか…

「コレがオレに出来る最期の親孝行だ…親父の会社もオレが潰しちまって、あの人の人生はきっと、ツラいだけだっただろうから…な…」

遠い目を空に向け、兄貴がポツリ…と呟いた

「オレのせいだよな、妾の子が…いきなり家に入り込んだから…」

「それが親父の決断だ、稀代の‪α‬が息子として生まれた、先を読む経営者なら、そうするのが当たり前だ」

そう言って、オレを見た

「兄貴…」
「お前が家に来た時のこと覚えてるよ、まだ歩くのも覚束無い頃だった、ひとりっ子だったし、最初は小さな弟が出来て嬉しかった、…でもいつからか、お前の存在がとても苦しくなった、何をさせてもお前はいとも簡単にやってのける、小さくても周りの子と違うことは見てればすぐわかった、稀代の‪α‬だと知った事もオレの劣等感に拍車を掛けた…」

一つ一つのフレーズを記憶を辿り考えながら話してる兄貴、こんな風に話す兄貴を見たのは初めてだった

「親父がお前を跡継ぎにすると決めていたのも知ってた、その事で母親が苦しんでいた事も…自分は愛人に負けたんだと、どんなに努力しても、あの女とあの女が産んだ子に自分達は勝てない…嫁いできた時の着物をハサミで切り裂きながら、声を殺して泣いていた…」


薄ら記憶にある情景…

御厨が、ハサミを手にした人からオレを遠ざけようと抱き上げたんだ…

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